1. HOME
  2. 食べる
  3. 和菓子が紡ぐ、交流のひととき「和菓子サロン一祥」
食べる

和菓子が紡ぐ、交流のひととき「和菓子サロン一祥」

食べる

京都の中心街、烏丸六角近辺で気軽に和菓子づくりが体験出来ることをご存知でしょうか。その名も「和菓子サロン一祥(いっしょう)」。烏丸六角を西に入ってすぐのビルで開講されています。1回完結型の少人数制のレッスンとあって地元の方だけでなく観光客からも人気を集めている教室で、主宰する宮崎泰江さんはレシピ開発などにも携わる元和菓子職人です。そんな宮崎さんにレッスン内容や講師になったきっかけなどをお聞きしました。

人と触れ合い、幸せを感じる教室に

――まずお店のお名前についてお聞きしたいのですが、どういった意味が込められているんですか?

二人の娘の名前から一文字ずつ取って「一祥(いっしょう)」と名付けました。「祥」には「幸せ」や「めでたいこと」という意味が込められているので、教室に来ることでひとつでも幸せを感じて欲しいな、とも思っています。

――娘さんのお名前が由来とは! 「祥」に込められた思いもとても素敵です。教室の開講はいつ頃ですか?

この場所で教室を開講したのが2013年です。もともとは和菓子職人として働いていたのですが、辞めてからは何もしていなくて。そんな時に知り合いから「和菓子の作り方を教えて欲しい」と言われ、最初は自宅で教室を始めました。すると、どんどん参加してくださる方が増えていって、ついには自宅に入り切らなくなって(笑)。こんなに通いたいと言ってくださる方がいらっしゃるなら、「教室をやってみたい」と思ったのが始まりです。

お店のことについてお話する宮崎さん。

――2013年ということは10年以上続けられているんですね。以前から和菓子教室を開きたいという夢があったんですか?

志があったというわけではないんですが、和菓子を通して人と触れ合うことが楽しかったし、リピーターが多いということは「皆さんも教室を楽しんでくださっているんだな」と思えて。そして今に至りますね。

今も続ける茶道のお稽古、和菓子との縁

――では、宮崎さんのことについてもお聞きしていきたいです。元和菓子職人ということですが、どちらで働いていたんでしょうか?

大阪にある、あんこを作る工場のアンテナショップで和菓子職人として働いていました。結婚を機に京都へ来たんですが、体調を崩してから仕事を辞めて。それから自宅で教室を行うようになりました。

――そんな経緯があったんですね。ちなみにご出身は?

出身は岐阜県です。近畿大学への進学をきっかけに関西にやってきました。

――近大ご出身なんですね。和菓子とはあまり関係のないような気もしますが…。そこでは何を学ばれていたんですか?

専門は食品化学です。研究対象は松茸やきのこなど。どういう成分がきのこにとって良いか分析する研究をしていました。

――きのこですか!? それは意外というか…。そこからなぜ和菓子職人に?

もともと食品栄養学に興味があって、将来的にも食品に関するお仕事がしたかったんです。あとは、手に職をつけたら長くお仕事を続けられると思い、和菓子職人を志しました。

――将来設計が素晴らしいですね。和菓子は昔からお好きだったんですか?

はい、もちろんです。和菓子だけでなく洋菓子も好きだし、食べることが大好きで。あとは、茶道のお稽古をずっと続けているので、和菓子は身近な存在でした。

――なるほど、茶道に和菓子は欠かせないですもんね。茶道はいつから?

本格的に習うようになったのは大学からです。実は母がお茶の先生をしていて、子どもの頃から茶道は身近な存在だったんです。家にも茶室があり、幼少時代から茶道に触れる機会は多かったですね。

――お母様が茶道の先生をされていたんですね。でも、習うようになったのは大学からなんですね。

実は大学進学の条件が「茶道を習うこと」だったんです。

――えっ!それはすごいエピソードですね。お母様にはどういった想いがあったんでしょうか。それほど茶道を習って欲しかったんですかね。

なんでしょうかね(笑)。

――茶道はお母様に習っていたんですか?

いえ、当時は奈良の森田宗園先生に習っていました。きっと、親子だと喧嘩するでしょ(笑)。最近は母にお茶を習っています。

教室には、宮崎さんの師匠・森田宗園先生の著書などが並んでいる。

――いまもお稽古を続けていらっしゃるんですね。お茶のお話をお聞きして、宮崎さんと和菓子のつながりを感じた気がします。そういったバックグラウンドがあって、和菓子職人になられたんだなって。

よくよく考えるとそうですね。潜在的なものはあったのかも。家族の歴史を感じて、いまにつながるんだな、という感じですね。

1回のレッスンで6〜8人ほど入る広い教室。

12ケ月、味わいの異なる和菓子を提案

――では次にスクール内容についてお聞きしていきます。クラスが3つあるんですよね。

「ベーシッククラス」「子どもクラス」のほかに、プライベートレッスンや外国人向けの「その他」という3カテゴリーに分かれています。すべて単発で参加可能で、毎月異なる和菓子をご用意しています。

――大人も子どもも同じ和菓子を作るんですか?

そうです。毎年12月頃に翌年1年間のレッスン内容を決めるんですが、秋だったら栗、6月だったら水無月など、季節感や地域性のある和菓子をセレクトしています。

教室でも作り方を教えている、羽二重餅。

――単発かつ毎月異なる和菓子が作れるのは良いですね。メニューのこだわりなどはありますか?

12ケ月あるので、同じような生地にはならないように心がけています。例えば、お餅ばかりにならないように、とか。和菓子って米粉や餅粉など素材が限られているんですよね。形はたくさんあるんですが。あとは、和菓子には歴史や地域差もあるので、12ケ月通して楽しんでいただけるように工夫をしています。また、レッスンは2時間制で、時間内で調理・試食が出来る構成にしています。あんこは基本的に私が準備しますが、生地は生徒さんに作っていただいています。

室に参加するともらえるレシピブック。写真は宮崎さんが手掛けている。

――試食も出来るんですね。予約はサイトからですか?

だいたい5個くらい作れるんですが、1個はその場で皆さんで試食して、残りはお持ち帰りいただいています。予約受付はサイトのみです。参加費は6500円〜で、お子さんは3500円となります。

お店の想いに寄り添うレシピ開発

――教室だけではなく、レシピ開発もされているんですよね。これまで何社くらい携われたんですか?

4社ほど、すべて京都のお店です。最初に「UCHU wagashi」さんからお話があって、そのあとは「甘党茶屋梅園」さんからもご依頼をいただきました。

――レシピ開発とはどんなことをされるんでしょうか。

お店で出したいもの、店主さんの想いなどをヒアリングし、スタッフだけでは難しいことを私が手助けするようなスタンスで並走しながら進めています。

――やはりそれは、食品栄養学科で学ばれた知識が活きているのでしょうか。

そうですね。例えば、「こんな形にしたい、こんな色味にしたい」といった要望を食品化学の知識を踏まえて提案させていただいています。お店の方だけでなく材料屋さんと相談しながら、実験を何度も繰り返し、みんなでアイデアを出して、想いに寄り添いながらレシピ開発をしています。材料って、どんどん進化しているので、お店の方や材料屋など、みんなの力を集結させていますね。

たくさんの器具が並ぶ教室。

――大変ですがやりがいはありそうですね。苦労や楽しかったことなどはありますか?

常に基本苦労しているんですが(笑)。ゼロからのことなので、全くうまくいかない(笑)。基本的に新商品の開発なので、それなりに時間がかかります。「おいしさ」はもちろんのこと、見た目やデザインなどにもこだわると、さらに時間がかかる。ひとつの商品を作るのに、トータルで一年くらいはかかりますね。

手づくりだからこその無二の美味しさ

――貴重なお話をありがとうございました。宮崎さんにとって、和菓子の魅力ってなんでしょうか?

いっぱいありますが、日々の暮らしのなかで人とのつながりを深く感じることができる _ことです。和菓子って、誰かと食べるものだと思っていて。一人でこっそり食べるよりは、家族や知人と会話をして楽しむもの。「この和菓子を昔家族と食べたな」とか「友達と食べたな」とか、誰かを思い出せる食べ物だし、そういう位置づけだと思っています。

――人とのコミュニケーションツールですね。その想いを持ちながら講師をされているんですか?

はい、それを教室で伝えたいと思っています。和菓子づくりが上手にならなくても良いと思っていて。教室で作った和菓子を持ち帰って、家で家族と会話をして欲しい。家族でも友人でもパートナーでも、和菓子を通して交流を生んで欲しいです。

――素敵な考え方です。今後、教室をどんな場所にしていきたいですか?

皆さんにとって居心地の良い場所になれば良いなーと思います。気軽に習いに来て欲しいので、それがレッスンを単発にした理由でもあります。

――そういった想いがあったんですね。では最後に、宮崎さんにとって和菓子づくりの楽しさとは?

和菓子の材料ってシンプルなんです。植物性のものが中心で自分で作るとどんな材料が入っているか分かるし安心しますよね。あとは、和菓子は出来たてがとにかく美味しいんです。和菓子づくりの技術は和菓子屋さんには敵わないし、そこをリスペクトしながら私も教室を行っていますが、やはり作ってすぐ食べられるっていうのは魅力のひとつ。砂糖の量も合わせられるし、身体のことも考えられるのは強みであり、手作りの良さですね。

京都の街中で和菓子づくりが体験出来る貴重な教室です。これまで和菓子を作ったことがない私ですが、宮崎さんから和菓子づくりを教わったらきっと楽しいだろうな、と思わせてくださる素敵な取材でした。取材後にいただいた羽二重餅とお茶がとても美味しかったです。宮崎さんがおっしゃられていた「和菓子が繋ぐ交流の楽しさ」を肌で感じることが出来ました。改めてありがとうございました。(文:西井、写真:山本)

和菓子サロン一祥 代表 宮崎 泰江さん

1973年生まれ、岐阜県岐阜市出身。大学生から現在もお茶のお稽古を月に2〜3回のペースで続けています。最近のマイブームは「茶事」。

和菓子サロン一祥
京都市中京区骨屋町143 G&Gビル203
※開講日や予約方法はサイトからご確認ください。
https://www.wagashi-issho.com/

※掲載内容は取材時のものです。最新情報は念のため店舗公式の情報をご覧ください。