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日常に彩りを加える草木染めの10代目「田中直染料店」

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清水寺へと続く旧五条通である松原通沿いに、もうすぐ創業300年の染料を製造・販売するお店「田中直染料店」があります。10代目である田中崇輔さんにお店の事や染料についてお話をお聞きしました。

変化の中でアイディアが生まれる

――田中さんは10代目とのことなのですがお店はいつから始まったのですか?

創業は江戸時代の1733年になります。創業者が丁稚奉公をしていた店より、暖簾分けをしてもらったのが始まりです。

――なぜこの場所で創業されたのでしょうか?

詳細な資料としては残ってはいないので想像の部分が大きいのですが、前の松原通といえば、旧五条通。東へ行った先には清水寺があるんですね。昔はそこへお参りするために行き交う人が多く、そういった人たちに向けた商売を始めたと聞いています。   

――おそらく遠方からも来られていたりして、清水寺に行き交う人たちで賑わっていそうで集客になりそうな場所ですね。

創業当時から草木染めの原料を扱っており、買っていかれるのは着物の工芸に関わる方や作家さんでした。
他にも清水寺へお参りするにあたり、身だしなみが気になったりするのでしてちょっと染め直そうかという需要がありました。また、自然素材を扱っていることもあって、歩き疲れて休憩される方々にお香やお灸のもぐさを販売しておりました。

たくさんの染料
店内に並ぶ草木染の材料

__お客さまは一般の方というよりは相手も工房なんですね。 

そうですね、着物作るためにはそれぞれから材料を買ったり、織る人がいたりと、染めるために染料がいるなど当時から分業制で成り立っています。
創業当初は横並びの状況だったのですが、昭和初期から中期にかけてだんだんと決まった工房と取引するというグループ感が強くなってきました。うちはそれに乗り遅れてしまいました。

__え、それは大変ですね。

それはちょうど8代目である私の祖父の時代で、懇意な間柄の染料工房さんとの取引相手として乗り遅れてしまっている状況で、別の手を考えないといけない状況でした。そこで祖父が考えたのが染料を小分けにして一般の人に販売する方法をでした。業務用として売る量は一升になりますが、個人で使う分だと10gで十分なんです。

__何と、突破口を見つけられたんですね。

お客さんをプロばかりにせず、一般の方や芸大などの学生さんなどに向けて販路を増やしていきました。

__最初からそういったアイディアを温めておられたんですか?

と、いうよりはその場その場の状況に合わせて知恵を絞って対応していったという感じなんだと思います。そこから学生さんたちともよくコミュニケーションをとるようになり、一緒に時間を歩んでいった感じでしょうか。利用いただいた方には今や京都市立芸大の名誉教授になられている方もおられたりし、後々ネットワークも広がっていきました。

__8代目の対応力が素晴らしいですね。

同業者の中でも廃業されるところもあったようで、その時の目の付け所がすごく良かったんだなと思いました。他にも、アメリカで当時はやっていた通信販売を知って、全国的な販売もそれほど浸透していない昭和中期ぐらいから取り入れていたんですよ。

コミュニケーションの中でも気づきをもらう

――田中直染料店さんは自社で染料を製造・販売されているとのことですが

はい、創業当初から天然の草木染を自社で製造しています。
草木染は日本の伝統的な染色法で、身近なところでいうと、玉ねぎや藍、クチナシなどから取ることができます。

――玉ねぎですか、本当に身近なものから色が取れるのですね。

その素材自体は薄くて色がでなさそうですが、これが結構色が出るんですよ。草木染めの良さは自然な上に優しく使っていくたびに風合いが出て変化していくところですね。

――店内に置かれているものを見ると色とりどりです。

ただ、大量消費の時代の流れと共にいつまでも変わらない風合いを求められるところから、化学染料や合成染料などが必要になってきて、そういったものも取り扱うようになりました。

刷毛や生地なども取り扱っている
店内には染めで作られた商品が並ぶ

――求められるものを時代の流れにそって柔軟に対応されているんですね。他にも染料以外のものも置いてますね。

これもその場その場というか。染料を販売していると、お客さんから「刷毛はないの?」「染める生地が欲しい」などのお声をいただき、染料に関わる周辺のものを取り揃えていった経緯があります。

――だから生地や刷毛など色々あるんですね。2階が販売スペースとなっていて、今取材させていただいている場所はいくつかテーブルがありますが。

定期的にワークショップやイベントをやっていいるんですが、そんな時に使える場所になっています。

――販売だけではなくワークショップなどもされるのですね。

そうですね。うちでやるものもあれば、相談や依頼を受けることもあります。

――ワークショップの相談もできるんですか。どういった方が利用されるのですか?

大小関わらず、それこそ数名のご友人同士だったり、学校単位、企業の催しなど様々です。そういったときは染料の色でご提案するなど、一度お打ち合わせからさせていただいてます。

小中学生が参加する藍染のワークショップの様子
ワークショップで染料の説明をする様子
ワークショップの藍染はその日に持って帰れる

海外に出て日本の良さを改めて感じる

――田中直染料店はとても歴史のあるお店ですが、10代目となられたのはいつ頃なんですか?

わたしが10代目になったのは2023年です。2018年に入社しているのですが、実は卒業していきなりこの会社に入ったのではなく、別の会社で働いていました。

――そうだったんですか?修行のために別の染料に関する会社などですか?

いえいえ、全然違う分野です。実は学生の時に受験の事などに悩んでいて、それと同時に外国に興味があって中国へ渡りました。
当時だと英語を喋れる人はいるけど中国語が喋れる人ってまだまだ少なかったんではないかと思います。それで中国語の勉強をし、現地の日本企業に行って中国語でこれだけ喋れることをアピールし、雇ってもらいました。そこで数年働いて、日本に帰ってきて今に至ります。

ーーえっ、色々すごいですが、行動力!8代目のDNAを感じました。染めとは違う分野ですが、中国語に親和性を感じられたのでしょうか。

そうですね、元々大陸から伝わったものなので、中国ははっきりしたスタイル、日本は繊細なスタイルと表情は違いますが、中国の方も興味を持ってくれていて、染め物で繋がっているのを感じます。また意識はしていなかったのですが、結果的に中国語が喋れることが強みになった気がします。

ーー今はインバウンドで中国からも多く来られるんじゃないですか?のですか? 

まさに、中国からたくさん来店いただいていて、もちろん中国語で対応するのですが「中国語喋れるの?」と友人のように一気に距離が近くなります。

ーー海外に渡って過ごした経験がネットワークを広げているのを感じます。そんな歴史ある田中直染料店さんですが、今後考えられている事などありますか?

自分としての歴史が10代目ですが、祖父がやってきたようにお客さんとの対話を大切にしてその場その場で柔軟に対応できたらと思っています。
SDGsなどの流れで社会全体が自然志向にも関心がある昨今ですが、「染め」というものが「日常」の「当たり前」であると嬉しいです。

もうすぐ創業300年を迎える「田中直染料店」。まさに京都の老舗なのですがそこにはピンチな状況を市場で求められてることを見つめて知恵を絞りながら柔軟に対応してきたことがお伺いできました。店内は染料がたくさんあり興味深いので、ぜひお店にお伺いしてみてください。(文/写真山本)

株式会社 田中直染料店 取締役社長 田中崇輔さん

京都市出身。最近は仕事の技術が転じて木工を染めることにハマっている。

株式会社 田中直染料店

075-351-0667
京都市下京区松原通烏丸西入玉津島町312  
定休日 日曜日・祝祭日
営業時間 10:00〜17:00
https://www.tanaka-nao.co.jp/

※掲載内容は取材時のものです。最新情報は念のため店舗公式の情報をご覧ください。