ひとつのメディアとして誕生した路地奥の小さな本屋「hoka books」
編集、建築、写真…つくり手の顔を持つ店主がくれる出会い
堀川五条交差点近く。醒ヶ井通(さめがいどおり)の路地奥に、京町家を改装した小さな本屋さんがあります。目印は青色の外装。どのような本と出会えるのか「hoka books(ホウカブックス)」さんにお話をお聞きしました。
――hoka booksさんは、どんな書店なのでしょうか?
嶋田さん:僕と西尾くん2人が経営する小さな本屋です。2021年7月にオープンしました。1階は新刊書店として、2階はギャラリーとしてイベント活用しています。
7月に1周年を迎えるのですが、それを機に古本の取り扱いを始めます。古本と言っても“新刊よりも安い中古の本”という意味での古本ではなく、何十年も前に出版されたものや、新刊としては手に入りにくい本。僕たちがいいと思いセレクトした本を集め、古い本との出会いを提供したいです。
――お二人とも名刺デザインや肩書が違うんですね。
嶋田さん:二人で本屋をやっていますが、それぞれ別の業務や軸を持っているので、違う名刺ですね。僕は大阪の出版社に約5年間勤めた後、ひとり出版社「烽火書房」を2019年に立ち上げました。烽火と書いて「ほうか」と読みます。のろしの意味です。僕自身にできる情報発信って何だろう?と考える時に、大手出版社のように高速で行き渡るメディアではなく、どうしても小さかったり遅い情報になる気がするんです。でもそれを悪いことだとは思っていなくて。なんで悪いことじゃないんだろうって考えたときに、必要な時に必要な人に必ず届く、のろしのようなメディアになりたいんだなと気づいて名付けました。
西尾さん:僕は大学と院で建築を学んだ後、2015年にuugを立ち上げました。uugは京都・大阪を拠点に活動する、編集者、写真家、建築家などからなるグループで、僕自身は、写真や建築書などの編集、展示会の企画など、いろいろやっています。嶋田くんもメンバーです。
――嶋田さんの烽火書房が店名の由来なんですね。
西尾さん:嶋田くんの烽火っていう名前をそのまま引き継ぐんじゃなくて、アルファベット(hoka)にすることで、差異は生んでいるつもりです。「ホウカ」なのか「ホカ」なのか…読み方が分からないようアレンジしました。いろんな形で誤解してもらえたらいいなって思ってるんですよね。
――誤解というのは?
西尾さん:例えば、hoka booksは嶋田くんがやっている本屋だと思って足を運んでくれる人もいれば、僕がやっている本屋だと思って来る人もいて。いろんな人たちと、いろんな関わり方をして、自由な捉え方をされていいなと。
本以上に情報量がパッケージされたメディアは他にない
――どうして書店をやろうと思ったのですか?
嶋田さん:さっき西尾くんから名前の挙がったuugの名義を使って、共同で仕事やプロジェクトをやることも増えて、ビルの一室に共同事務所を作ったのですが手狭になってきたんです。
西尾さん:事務所として作業するだけの場所だと面白くないので、事務所の移転を兼ねて、開かれた場所を作ろうと。本って、すごい情報量がパッケージされているメディアで、それ同等のものは他にないんですよね。僕は建築や写真もメディアだと考えているんです。そんな風に幅広く捉えている中でメディアの1つとして「本に関わる」ことに自然と寄っていった感じですね。
嶋田さん:以前、新潟の大地の芸術祭に出展した時、新潟の十日町を取材・編集して立体的なローカルマガジンを作ったんです。
西尾さん:京都から新潟まで片道7時間を何度も往復して、全然地に足ついた感じにできなくて。それもあって、腰を据えられる場所を持った方が合っているんじゃないかって落ち着いたのかな。
――大きな作品ですね。店内の棚などもお二人が作られたのでしょうか?
嶋田さん:そうですね。hoka booksの内装設計や外壁の本棚をイメージした青色の陶器など、すべてDIYです。西尾くんをはじめ建築系の友人が多いので、仲間に設計も頼んで、DIYは自分たちでやりました。大地の芸術祭の作品は解体しましたが、その時の材料を店内の本棚として再利用してるんですよ。
このまちみたいな本屋さんになりたい
――路地奥の町家にお店を構えられ、実際どうですか?
嶋田さん:見つけづらい場所にお店があるからこそ、僕たちに共感してくれる人とのいい出会いがあります。
西尾さん:物作りや研究しかしてこなかったので、すごい開かれているなと感じます。お客さん以外にも、このまちの人とも新しい繋がりができました。
――まちの人との繋がりは大切ですよね。
西尾さん:僕らは地域に根づいた本屋になりたくて。いろんな本が置いてある本屋の豊かさは、小さなお店がたくさん集まっているhoka books周辺のまちの豊かさに似てると思ったんです。
なので『このまちみたいな本屋さんになりたい』というコンセプトで映像を作り、2階のギャラリーで上映しました。
嶋田さん:近くの町工場の職人さんやお茶屋さんの作業風景、町並みなどを収めた映像です。撮影は西尾くんで、僕が広報担当ですかね。
西尾くんとは大学の映画サークルで出会っているので、映像はお互い関心のあるメディアで。その第一弾的なものかもしれないです。
――2階のギャラリーではどんな展示をされているのでしょうか?
西尾さん:都度都度相談があったり、こちらから提案したりして、幅広くやっていますね。直近の『つくり手の見えるリトルプレス展』では、ZINE、詩集・歌集、小説、漫画、エッセイ、写真集などさまざまなリトルプレスのつくり手を集めて本と制作の裏側を一緒に紹介したり。『本屋と椅子』というイベントでは、友人の椅子張り職人がリメイクした生まれ変わった古椅子とものづくりにかかわる選書を2階に並べました。
嶋田さん:本のイベントしかやりません、という場所ではなく、メディア的な場所としてコンテンツ(展示内容)が面白ければジャンルにこだわらず展示したいですね。
――7月はどんなイベントをされますか?
嶋田さん:建築家の杉山由香さんがご自身の実家を手放すまでのプロセスを表現した書籍『おうちさよなら日記』の出版に僕も関わらせていただいたんです。その書籍関連の展示が東京で行われて、その巡回展『次の生活への希望』を開催します。※会期:2022年7月1日(金)〜31日(日)/月火休
――二人も本を手がけられているそうですね。
嶋田さん:はい。僕は6月18日(土)に『たやさない つづけつづけるためのマガジン』というリトルプレスをhoka books名義でリリースしました。烽火書房と本屋店主、どちらも中途半端になりそうな僕自身のための本でもというか。建築家やカフェ店主など、自分の取り組みを続けるためどんな活動をしているかなど、ものづくりの火を「たやさない」ヒントを言葉で寄せてもらった一冊です。
――面白そうな内容ですね。装丁も素敵です。
嶋田さん:小さな出版社だからこそ、自分たちで工夫すればできることがあるんじゃないかと常々考えていて、今回は表紙に手作業を加えています。大変なんですけど(笑)。絵は西尾くんです。よく見ると、のろしも描かれているんですよ。
――西尾さんはどんな本を?
西尾さん:僕のおばあさんの家を建て壊したんです。今、現実にはないものを本の中で再構築する、というコンセプトで本を書こうとしています。本のイメージはほぼ完成してて、あとは原稿を書く工程が残っている状態です。これもhoka books名義で出版する予定です。
――お二人の目標などがあれば、お聞かせください。
西尾さん:2号店をつくりたいです。hoka booksの2号店かもしれないし、異なるコンセプトのお店かもしれないです。だいぶ先の夢だと思いますが、また、こういう場所をまたつくりたいです。場所も京都にこだわらず3拠点生活できるくらいがいいですね。
嶋田さん:出版社としての目標になりますが、今後5年で1万部売れる本をつくってみたいです。今までつくった本は売れても増刷できないとか、まだまだ在庫がある……ということが多いので。重版かかって1万部達成してっていうのが、烽火書房としての目標です。
店主の嶋田さん、西尾さんの「つくり手」としての考え方、行動力に刺激を受けました。hoka booksさんのような書店は「独立書店」「独立系書店」として、出版業界で最近多い存在なのだそう。大型書店とは違う魅力がたっぷり詰まった本屋さんと出会えて喜びです。
1周年に合わせて店内を少し改装されるとのことで、どのような店内になっているのでしょうか。また遊びに行かせていただきます。(文:武藤/写真:上山)
hoka books 店主 嶋田 翔伍さん
上京区生まれ。ひとり出版社「烽火書房」を立ち上げ、2021年7月に西尾さんと共同で書店「hoka books」を開店。堀川通を愛している。最近うれしかったことは、世の中的に飲みに行きやすくなっていること。
hoka books 店主 西尾 圭悟さん
名古屋生まれ。写真と編集を行うuugを立ち上げ、2021年7月に嶋田さんと共同で書店「hoka books」を開店。趣味は旅行。最近うれしかったことは、東北エリアの建築と本屋を巡れたこと。
hoka books
京都市下京区醒ヶ井通五条上る小泉町100-6
TEL 080-2048-6328
定休日 月曜日・火曜日
営業時間 13:00~19:00
https://hokabooks.com/
※掲載内容は取材時のものです。最新情報は念のため店舗公式の情報をご覧ください。