身近な人を幸せに、パティシエ夫妻の新天地「CとSHE.s」
烏丸通から一本東側にある不明門通りを北進し、因幡堂 平等寺を東に曲がると見えてくる小さなお店。2023年10月にオープンしたばかりの「PATISSERIE CとSHE.s」というケーキ屋です。おふたり揃ってパティシエという渡邉仁さん・優佳さんご夫妻にオープンの経緯やケーキのこだわりなど、いろいろお話を伺いました。
愛着を持って欲しい、店名に込めた想い
――今日はよろしくお願いします。さっそくなんですが、シートシーズという店名が特徴的ですよね。由来を教えていただけますか。
優佳さん:「CとSHE.s」は造語なんです。本当は「セラヴィ」とつけたかったんですが、色んなお店で使われているほど有名な単語なので、せめて頭文字だけでも入れようと「CとSHE.s」になりました。「SHE.s」の部分はケーキを表現しています。「私と彼女(ケーキ)たち」という意味を込めて、あとは響きと語呂の良さで店名を決めました。
――一度聞いたら耳に残るお名前ですよね。優佳さんが考えられたですか?
優佳さん:いえ、夫が考えてくれました。
――仁さんが!とっても素敵ですね。ちなみに、「セラヴィ」とはどういう意味なんでしょうか?
優佳さん:フランス語なんですが、直訳すると「まあそれも人生だ、どんまい」みたいな意味があるんです。ただ、ネガティブな意味だけではなく、「この出会いに感謝」といったポジティブな意味もあって、初めてこの単語に出会ったときに「素敵だな」と思いまして。嫌なことがあったり、項垂れたりしたときに、うちのケーキを食べて元気になって欲しいという意味を込めました。
――なるほど。では、「C」にその願いも込められているんですね。
優佳さん:そうですね。一文字だけですけど(笑)一度聞いたら耳に残る名前にしたかったので、いろいろ試行錯誤して、一番可愛く見える響きにしました。世の中にない名前を作るのは簡単だけど、その名前に愛着が湧くようにするのが難しかったのですが、愛着を持ってもらえるような名前になっていると思います。
神戸のパティスリーで運命的な出会い、夫婦で独立を目指す
――ではお店のオープンの経緯などを教えていただきたいのですが。優佳さんは昔からパティシエになるのが夢だったんですか?
優佳さん:もともと幼少期からケーキ屋さんをしたくて。漠然と組み立てていた人生設計のなかで、三十歳までにお店を持ちたいという夢がありました。なんだかんだと二十九歳まできたんですが、パティシエの夫の後押しもあって、2023年10月にお店を出すことが出来ました。ここでまずはスタートラインに立てたかな、と。
――仁さんも元々パティシエを目指していたんですか?
仁さん:いえ、最初から夢というわけではなかったです。高校生の時にパン屋でバイトしたことがきっかけです。軽い気持ちでやり始めたらいつの間にかずっとこの業界に。出身は山口県なんですが、神戸の製菓学校に通って、東京や神戸などのパティスリーで働いていました。
――ご出身は山口県なんですね。優佳さんとはどちらで出会ったんでしょうか?
仁さん:出会ったのは神戸です。東京の職場がきつくて一年で神戸に戻ってきたんですが、もうちょっと頑張ってみようかな、と思って働いた神戸のパティスリーが自分に合っていたようで。「あー楽しいな」とスイーツ作りの楽しさを思い出せることが出来て、仕事を続けられました。
――良いご縁があったんですね。では、その神戸のお店で優佳さんに出会ったんでしょうか?
優佳さん:いえ、その次のタイミングです(笑)
仁さん:そのあと、一度地元の山口に戻ったんですが、また再び神戸に来て、別のパティスリーで働いているときに出会いました。
――すごい(笑)。なかなか運命的な出会いですね。
仁さん:運命的というか手繰り寄せられたというか…(笑)
優佳さん:タイミングが合ったんだと思います。夫とは十歳差なので、知識や経験、理論面などでとても勉強になり、いつしか二人で独立を目指すようになりました。
――独立の地に京都を選ばれた理由は?
優佳さん:私が宇治出身なので、京都でお店を持ちたいという思いがありました。元々、「身近な人の笑顔になれるようなものを作りたい。知人の誕生日に使ってもらいたい」という思いがあったので、どちらかの地元で開業したいと思っていました。
京都ならどのエリアでも良かったんですが、色々な物件を見るなかで、お店のサイズ感や地域の雰囲気などが一番しっくりきたのがここでした。ここにケーキ屋さんがあったら素敵やな、という場所に巡り会えたと思っています。
夫婦ふたりで絶妙な甘さを追求
――お店のことについてもお聞きしたいのですが、コンセプトなどを教えてください。
優佳さん:コンセプトとしては、フランス菓子をメインとしたケーキ屋さんです。フラン、ミゼラブル、オペラ、メルベイユ、カヌレなどが伝統的なフランス菓子と呼ばれるもので、当店ではそういったフランス菓子を中心に、生菓子14〜15種類ほど、焼き菓子10種類ほど、プリンなどを取り揃えています。
デコレーションケーキは前日までにご予約いただければご提供できます。全体的に、古典菓子の概念を崩さずに自分らしさをプラスしたフランス菓子を目指しています。
――自分らしさ、とはどういった部分なんでしょうか?
優佳さん:ひとくち食べたときのバランス感を大切にしています。全体の香りや匂いを感じるタイミング、最後に残る味わいなど、基本的に甘すぎないお菓子を心がけています。
――ケーキはおふたりで考案されるんですか?
優佳さん:そうですね。生ケーキは私が考案することが多いです。実は私が甘党ではないので、一度作ったケーキを夫にも食べてもらい、味のバランスをすり合わせていって、美味しさを調整しています。甘いものを食べに来たお客さんにも、甘すぎるものが得意じゃない人にも、食べやすい絶妙な甘さを二人で意識しています。
――なんだか、バランスの取れたご夫婦ですね
優佳さん:ふたりの好きなケーキ屋さんが似ていた、という共通点はありますね。味覚が似ているけど、好きな甘さだけが違う。だったら、私たちふたりが美味しく食べられる甘さが皆さんに喜んでもらえる甘さなんじゃないかなって思って。
――おふたりがいることで絶妙の甘さが生まれているんですね。新作も開発されているんですか?
優佳さん:はい、月に二種類は出したいと考えています。春夏秋冬の商品は並べたいと思っているので、季節ものなどを中心に夫と開発しています。
仁さん:すぐ新作作ろうと頑張るんです(笑)
ケーキで広げる笑顔の輪
――お客さんの層はどういった方が多いんですか?
優佳さん:土地柄かご年配の方が多いです。あとは50代くらいの男性が多いですね。つい先日も並んでいる三人のお客様が全員50代くらいの男性ということがありました。
――お店が奥まっているので甘いもの好きの男性にとっても買い物しやすい、というのもあるかもしれませんね。お客さんにかけられて嬉しかった言葉などありますか?
優佳さん:勉強になるお言葉、叱咤激励、たくさんいただきます。京都という土地柄なのか、密にお付き合いしてくださるお客様が多いですね。感想も事細かに伝えてくださります。
ご年配の常連さんがいるんですが、通院の帰りに立ち寄るのが楽しみで、病院に行くのが嫌じゃなくなった、と声をかけてもらったときは嬉しかったです。診察が終わったらここのケーキを買うから楽しみな日になったって。
――それは励みになりますね。ちなみに、商品が一番並ぶ時間帯は何時ぐらいでしょうか?
優佳さん:嬉しいですね。美味しかった、という言葉を励みにしています。お昼すぎくらいが一番種類豊富です。正午から13時くらいにかけて並べていきます。
――ではその時間帯が狙い目ですね。今日は貴重なお話をありがとうございました。最後に、今後の目標を教えていただけますか。
優佳さん:2号店、3号店と店を増やしていきたいです。まずはこの土地でこのお店を盛り上げて。常連さんに支えてもらっているので、もっとたくさんの方にお店を知っていただきたいです。知人や友達、家族だけじゃなく、よく来てくださる常連さん、おしゃべりに来てくださるお客様など皆さんを大切にしながら、その輪を広げていきたいです。
オープン当初から気になっていたお店でした。バランスの取れた素敵な関係のご夫妻に温かい気持ちになりました。私自身も甘いものがあまり得意ではないのですが、CとSHE.sさんのケーキは本当に美味しい!軽やかな甘さが絶妙です。お近くに行かれた際はぜひお立ち寄りください。(文:西井/写真:山本)
PATISSERIE CとSHE.s 店主 渡邉仁さん・優佳さん
1984年 山口県生まれ。趣味は散歩。町並みを見たり好きなお店を見たり、時には十数キロ歩くことも。
1994年 京都府宇治市生まれ。休日は夫と二人で出掛けることが多いです。関西圏の純喫茶へ行ってコーヒーを飲むのが好き。
PATISSERIE CとSHE.s
京都市下京区因幡堂699-1F
TEL 075-585-5285
定休日 木曜日・隔週金曜日(毎月のお休みはInstagramでお知らせ)
営業時間 11時〜19時頃
※掲載内容は取材時のものです。最新情報は念のため店舗公式の情報をご覧ください。