かねてよりの夢を実現、ホテル出身シェフが手掛けるガトーショコラ専門店「京ガトー 錦店」
錦市場の一角に佇む「京ガトー 錦店」は、有名ホテル出身のシェフ・美田篤志さんが手掛けたガトーショコラ専門店。ガトーショコラは美田さんが営むダイニングバー「京町家PAUSE」の人気商品で、評判の味を気軽にテイクアウトしてもらおうとお店が誕生しました。オープンの経緯やこだわりなどについて美田さんにたっぷりうかがってきました。
評判の味をテイクアウトで気軽に
――今日はよろしくお願いします。美田さんは京町家PAUSEのオーナーシェフでもいらっしゃるんですよね。
はい、そうです。ガトーショコラはPAUSEの人気商品でもあります。ほとんどのお客さんが注文してくれますね。テイクアウトされる方もいます。
――常連さんにとっては馴染み深い一品なんですね。オープン当初から提供されているんですか?
はい。1998年のオープン時から提供しています。PAUSEで提供しているのは、チョコとホワイト、抹茶。京ガトーではこれらにプラスして、ほうじ茶やピスタチオ、ラム漬けイチジク、季節商品などを販売しています。
――京ガトーさんでは、美田さん自慢の味がテイクアウトで気軽にいただけるんですね。専門店を出そうと思ったきっかけは?
もともと、PAUSEのオープン当初からガトーショコラの店を出したいと思っていました。縁があって錦市場に店舗を持てるようになったのが2022年。立ち上げからずいぶん時間がかかってしまいましたが(笑)。
――かねてよりの夢を叶えられたんですね。もともとガトーショコラが得意だったんですか?
いえ、最初は作れなかったです。というのも、私はホテルで洋食のシェフとして働いていたんですが、当時はパティシエがガトーショコラを作っていて。独立を目指してホテルを退社し、街場のレストランで経験を積んでいる際にケーキづくりを覚えました。その時に「美味い」と感じ、ガトーショコラの魅力に気づきました。それからふと、「チョコレートのガトーショコラは多いのに、ホワイトチョコレートのガトーショコラがないのはなんでだろう」って疑問を感じて。そこから興味を持って作ってみると、ホワイトチョコレートでも美味しいのが出来た。出来るやん、って思いましたね(笑)。
――種類が豊富なのも京ガトーさんの魅力ですね。私も数種類いただいたんですが、生地がしっとり食べやすく、甘さ控えめで食事のあとでもぺろっと食べられそうです。素材のこだわりなどはありますか?
クーベルチュール・チョコレートを使用しているところですね。また、京都「祇園北川半兵衛」さんの抹茶とほうじ茶を使っています。そこがこだわりです。
父親の背中に憧れてシェフを志す
――では、美田さんのこともお聞きしていきたいです。もともと料理人になるのが夢だったんでしょうか?
そうです。父親がホテルでフレンチの料理長をしていて、父親の背中に憧れて料理人を目指しました。小学校のときに父親の職場に行ったときに、長い帽子を被る父親の姿を見たんですよね。その時「お父ちゃんみたいになりたい」と。その後、両親が離婚し、私は母方で育ちました。離れて暮らしても、シェフをしていたときの父の記憶がずっと残っているんですよね。
――お父様がきっかけとは、とても素敵ですね。料理の専門学校に進学されたんですか?
いえ、高校を卒業してすぐ就職しました。実は専門学校へ行くか就職するか悩んでいて、親父に相談したんです。親父とはずっと疎遠だったんですが親戚から連絡先を聞いて、そのとき初めて電話しました。
――えっ!それは緊張されませんでした?
緊張しましたよ、小学校以来やから。親父に「どうしたらええやろ」って聞いてみたら、「専門学校行くより一日でも早く働いた方が良い」とアドバイスをもらい、就職する決意を固めました。
――すごいエピソードですね。お父様、喜んでいたんじゃないですか?
喜んでいましたね。料理人という同じ道に進むことを。その後、びわ湖大津プリンスホテルに入社しました。私はそこの一期生なんです。ホテルがオープンするちょうど一年前に入社し、独立するまでは他のホテルやレストラン、スイスのホテルでも働いていました。
――スイスですか!どんどん気になる情報が出てきます(笑)スイスのお話も聞かせていただいても良いですか?
26歳でスイスに行って、28歳で帰国しました。向こうではホテルで鉄板焼きのシェフとして働いていました。苦労したことはやっぱり言葉ですね。ドイツ語でのやり取りがさっぱり分からず…。
愛されるおもたせに
――いろんな経験をされているんですね。スイスでの経験を経て、独立したいという思いが芽生えたんでしょうか?
いえ、自分の店を持つという夢は料理人を志したときからありました。最初は親父のようにホテルの料理長になりたかったんですが柄には合わない気がして。自分のやりたいことが出来る店を作りたいと。
思い返せば、大津プリンスで働くと決まったときに、母親がフランス料理を食べに連れてくれたんですよ。フランス料理を食べたことがなかったから、それが初体験だったんですが、緊張して何を食べたか覚えてない。美味しいものを食べに行ったのに、緊張してしまって記憶に残らないってなんなんだろうって。
――なるほど。マナーも難しいですよね。
そうそう。店をオープンするとき、気軽に美味しく食べて欲しいと思ったんです。せっかく美味しいのに、緊張したりマナーを気にしたりして、記憶に残らないのはさみしいな、と。ちなみにPAUSEは「休憩」という意味なんです。ほっこりして欲しい、気軽に食べて欲しい、という想いを込めています。
――美田さんの食を想う気持ちが伝わってきました。では最後に今後の展望を教えてください。
夢は専門店を大きくすることです。いまは錦で頑張って、ゆくゆくは店舗を増やしていきたいです。ガトーショコラがおもたせになって欲しいですね。
美田さんの気さくなお人柄がとても印象的でした。エピソードが豊富でとても楽しい取材時間を過ごさせていただきました。ガトーショコラはどれも口溶け滑らかで美味しい!私は特にラム漬けイチジクがお気に入りです。プレゼントとしても喜ばれると思いますので、お近くに行かれた際は是非立ち寄ってみてください。(文:西井/写真:山本)。(文:西井/写真:山本)
京ガトー 錦店 店主 美田篤志さん
1969年 京都市生まれ。熱帯魚を育てるのが趣味。光の量や生息する魚の数、酸素量など絶妙のバランスがあって、生態系を守りつつ地球を作る感覚がとてもおもしろいです。PAUSEのカウンターに大きな水槽があるので、来店した際にご覧ください。
京ガトー 錦店
京都市中京区中魚屋町511
TEL 075-708-8892
定休日 木曜日
営業時間 11時〜17時
※掲載内容は取材時のものです。最新情報は念のため店舗公式の情報をご覧ください。