創業80年以上の歴史、京都の街中で存在感を放つ八百屋「倉田商店」
大丸京都店のすぐ北側、錦東洞院でひときわ存在感を放つ八百屋「倉田商店」。店先には新鮮な京野菜や旬の果物が所狭しに並んでいて、街を歩く人々の目を引いています。店主の倉田茂さんにお店の成り立ちや想いをうかがいました。
多国籍な客層、人々が立ち寄る理由は?
――まずはお店の成り立ちについて教えていただけますか。
初代である祖父がこの店を始めました。親父から引き継いで私が三代目となります。当初はいまよりも京都市内の南の方に店を構えていたのですが、縁があってこの地に移転しました。移転したのは1951年で、創業はかれこれ80年くらいですかね。
――80年…!長い歴史があるんですね。開店当時から野菜や果物を取り扱っていたんでしょうか。
そうですね。田舎は京都市右京区なんですが、そこから街中に出てきて八百屋を始めたと祖父から聞いています。その当時、八百屋は一番簡単に始められる商売だったんですよ。
――お店に並んでいるお野菜や果物についてもお聞きしたいです。仕入先はどちらなんでしょうか?
毎日、京都市中央市場から仕入れています。毎朝4時に起きて市場へ行き、その日その日で良いものを自分で目利きしています。朝早くから海外の方が来てくれるので、市場から帰ってそのまま店を開けます。オープンはだいたい朝8時で、夜8時くらいまでは店を開けています。
――12時間もお店をオープンされているんですね。立地的にお客さんは海外の方が多いんでしょうか。
いまは海外の方が多いですね。近くのホテルに泊まっている人たちが部屋で食べるために果物を買って行かれます。今の時期だといちご、りんご、シャインマスカット、みかんなど、基本的にすぐに食べられるものが人気です。立地が立地なので日本人の観光客も多いです。世界旅行に行かなくても良いくらいに多国籍です。
――日本にいながら世界旅行、素敵ですね。そういえば、先ほども海外のお客さんが買いに来られていましたよね。ちなみにコミュニケーションは英語で取られているんですか?
英語ですね、簡単な英語でやり取りをしています。とくに勉強などはせず、もう慣れで話しています。接客をするうちに自然と英語でのやり取りを覚えていきました。
三代目店主は元球児、野球から学んだ商売のコツ
――では、倉田さんがお店を引き継がれた経緯を教えていただけますか。
大学を卒業してから京都市中央市場に働きに行って、そのあと家を継ぎました。最初は親父と一緒に。中央市場には1年半ほど働きに出ていたのですが、店が忙しくなってきたので店を手伝うようになり、いまに至ります。当時のお客さんは日本人がほとんどで、近くの飲食店などへ配達もおこなっていました。
――そうだったんですか。大学では農業や経営などを学ばれていたのでしょうか。
いえ、大学では野球ばかり。平安中学・高校、龍谷大学でずっと野球をしていて。高校一年のときにチームが甲子園に出場したのですが自分たちの代は出られず…。紆余曲折あり、大学のときに家業を継ぐ決断をしました。
――球児から八百屋への転身はすごいですね。ちなみにポジションは?
ポジションはどこでも、なんでもあり。試合に出られるならどこでも出る、というつもりでいました。野球をやっているときに要領の良さとかが身について、それが商売の役に立っているかもしれません。
良い意味で気楽に
――長年、京都の観光地の中心で時代の移り変わりを見てこられたと思うですが、変化を感じたことなどはありますか?
立ち寄ってくれるお客さんは日本人から外国人に比率が多くなっていきましたけど、あまり変化は感じていません。基本的に京野菜や季節のものを取り扱ってはいますが、海外のお客さんが増えたので果物をたくさん取り入れるようにはなりました。商店街がなくなったり寂れたりという話をよく聞きますが、錦市場は毎日多くの観光客が訪れるのでその点は感謝しながら商売をしています。
――いつ来ても通行量も多いですよね。では、これまで嬉しかったことなどありますか?
やっぱり「美味しかった」と言われると嬉しいですね。「この前食べたフルーツが美味しかった」と言ってまた買いに来てくれるお客さんもいます。商売はリピーターが命でもあるので大事にしていきたい。海外の方でも近くに連泊しているのか二日連続で買いに来てくれる方もいます。そのときに「昨日来てた人やな」と気づくこともあります。
――きっと倉田さんの目利きが良いんでしょうね。いまはたくさんのお客さんが来られていますが、コロナのときは大変だったんじゃないでしょうか。
そうですね、コロナのときは車も通ってないし隣の大丸も休んでいるし、本当に暇でしたが、特に不安はありませんでした。コロナのときもずっと店は開けていたんですが、悠々自適にこの街を眺めながら、「暇やったら暇で良いわ」と良い意味で気楽にやってました。そうこうしているとコロナが明けて、観光客が戻ってきて、2023年秋くらいから急激に人が増え忙しくなりました。
――(取材中も多くのお客さんが訪れているのを見て)ずっと感じていたんですが、ここでのお仕事は毎日刺激的でしょうね。
そうですね、いろんな人が通るから。野球をやっていた頃の友達がふらっと店に遊びに来ることがあるんですが、「ここにいたら飽きへんやろ」とよく言われます。「ここで商売をしていて街を眺めていたら幸せやろ」と(笑)。
――野球時代のお友達ともいまも仲が良いんですね。やっぱり野球を見るのが趣味なんですか?
いや、特に(笑)。好きなチームも特になく、技術的な部分を見ているだけなので。大谷翔平はすごい選手やと思いますけど。以前は時刻表で旅行をするのが趣味でした。それを実行に移すのが。電車に乗るのが好きですね。
――素敵な趣味ですね。最後にお聞きしたいんですが、ここまでお店を続けてこられた理由は?
良い意味で気楽にやっているから続けてこられたんかな。このへんに住む年配の方と立ち話なんかもしながら日々を過ごしています。それなりの生活出来たらよいなと、慎ましい生活を目指してるんで。特に目標はないです。流れるままに、お店をやっていければ。背伸びしたら顔が険しくなるので。それがいやだから。
店の前を通るたびに気になっていたお店でした。ご主人のフランクな立ち居振る舞いから、人柄を知ることが出来ました。背伸びをしたら顔が険しくなる、との言葉が印象的でした。(文:西井/写真:山本)
倉田商店 店主 倉田 茂さん
1958年京都市生まれ。電車が好きな一面も。好きな果物はいちご。
倉田商店
京都市中京区東洞院通錦小路下る阪東屋町653
TEL 075-221-0536
定休日 日曜、祝日
営業時間 8時〜20時
※掲載内容は取材時のものです。最新情報は念のため店舗公式の情報をご覧ください。