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地域をつなぐコミュニティに、全国の郷土食が揃う「近江の館」

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錦市場の北側、堺町通沿いに店を構える「近江の館」。常連も多いという活気に満ちた店内には、日本全国の郷土食がずらりと並んでいます。お店のコンセプトや豊かな食生活の想いについて、店長の北川雅之さんにお聞きしました。

そもそも「郷土食」って?

――まずは、お店のことを教えていただけますか。

日本の郷土食の素晴らしさを知ってもらうためにオープンした「郷土食品専門会社」です。本店は滋賀県長浜市にあり、錦市場以外にも大阪や兵庫、東京に店舗を展開しています。店の面積としてはうちが一番小規模で、2007年にオープンしました。

全国の郷土食品がずらりと並ぶ店内。
店内には現地でしか購入できない食通には嬉しい商品も。

――京都の店舗はここ一店だけなんですよね。錦市場に出店された理由や客層を教えていただけますか。

「京都の台所」という理由が大きな理由です。オープン当初は年配のお客さんが中心だったのですが、いまは若い方も来られます。自分や家族が口にするものに気を遣ったり、食品の原料や入っている添加物などにこだわったり、健康志向の高い方が多いです。

あとは観光地なので、ここ最近は外国人の方がぐっと増えました。日本食は海外の人にどう受け入れられるか不安な面もありましたが、日本の食材を求めに来てくれる海外の方も多いです。わさびや抹茶、海鮮せんべいなどが人気で、日本食のクオリティの高さや安心面を評価してくださっている印象を受けています。

――健康食としても日本食は世界で注目されていますもんね。ところで、「郷土食」とはそもそもどういう食品を指すのでしょうか。

その場所場所、土地土地で作られた旬の食材を使った料理のことです。たとえば滋賀県なら小鮎の甘露煮や鮒ずしなど。代々受け継がれてきた郷土食が食卓でなかなか食べられない時代に来ているので、そういった全国の郷土食品をひとつに集めて次世代に伝えたいという思いのもと、この店が立ち上がりました。旬のものを食べるのが一番からだに良いので。

高知県の道の駅で販売されているという「きびなごケンピ」。
滋賀県の名物「赤こんにゃく」は存在感抜群。

「良いものを届けたい」というスタッフの熱意

――本店が滋賀県にあるということは、最初は滋賀のものを中心に取り扱っていらっしゃったんですか?

最初は滋賀県のものが多かったんですが、いまでは47都道府県すべての郷土食品を取り揃えています。店内には400種類ほどが並んでいますが、季節商品などを含めると取り扱っている商品は600〜700種類ほどですね。

――すごい量ですね。店内を見てみても聞き馴染みのない商品がずらっと並んでいます。取り扱う商品の基準はあるんでしょうか。

できるだけ原料がシンプルなものを心がけています。添加物はなるべく使っていなくて、国産のもの、食材の味を活かしたものなどですね。各地域の道の駅にしか置かれてないような商品も取り揃えています。

――それは貴重ですね。どういった経緯でこのお店で取り扱うようになったんですか?

実は、店頭に並んでいる商品は従業員やアルバイトなどスタッフが探してきたものもあるんです。たとえばプライベートで旅行に行ったときなんかに見つけてきた商品を購入して皆で試食して、「これは良い商品だからぜひうちに置かせてもらおう」って、メーカーさんに交渉して…。供給数の関係で難しいとおっしゃられるんですが、それでも何度も粘り強く交渉して取り扱わせていただいている商品もいくつかあって、道の駅の商品もそのひとつです。

――すごい。スタッフの皆さんも日頃からアンテナを張っていらっしゃるんですね。あまり見たことのないパッケージの商品も多いので、じっくり見入ってしまいます。

「宝探しみたい」とおっしゃるお客さんもいらっしゃいます。自分たちで探しに行くことも多いですが、お客さんから要望を受けたり、良い商品を教えてもらったりもしますよ。結構珍しい商品も取り扱っているので、郷土食好きのお客さんが「こんなのも置いてあるんだ!」と驚かれることもあります。そうしてリピーターになってくれるので、良い商品はお客さんも見てくれるし、つながっていくんだな、と思います。

リピーターも多いという「大野のり」は人気商品のひとつ。

――ちなみに北川さんが発掘した商品やおすすめ商品などを教えていただけますか。

現在は置いてないんですが、山梨県の名産の「信玄餅」は交渉させていただきましたね。あとは、広島県の名産の「広島菜」とゆかりのコラボ商品などです。これは物産展に視察に行ったときに見つけてきました。「赤こんにゃく」や「かしわめし」もおすすめです。担当者さんと交渉していると、その商品の開発秘話や歴史などバックボーンを知る機会も多いのですが、そういったときに嬉しさややりがいを感じます。

お店のコンセプトなどについてお話しされる北川さん

「おもてなし精神」から生まれた試食カウンター

――「近江の館」といえば、充実した試食コーナーだと思うのですが、試食用のカウンターは前からあったんですか?

試食サービスは以前から行っていたんですが、カウンターに座ってもらうスタイルはコロナ禍から始めました。カウンターもそのタイミングで取り付けました。社長発案の取り組みなんですが、「おもてなし」の心を持って、季節のものを味わってもらおうと。ゆっくり座って味わってもらうことでその商品の魅力を知ってもらえるかと。京都だけでなく、全国の店舗で同時にスタートさせた取り組みです。

――コロナ禍から始めたサービスだったんですね。私も試食させていただいたことがあるんですが、対応してくださるスタッフさんが皆さんお話上手で感動しました。

喋ることで商品の理解や知識も深まるし、お客さんとのつながりもできると思っています。非接触の商売が増えてきていますが、対面接客の良さがあると思うんです。おかげさまで好評で、お客さんの滞在時間も長いですし、売上にもつながっています。

店内にある試食カウンター。季節のおすすめ商品を味わうことができる。
3種類の郷土食品と一口サイズの炊き込みご飯、玄米茶までサービス(試食は季節によって異なる)。

――確かにお客さんの滞在時間は長そうですね。

常連さんが多いですね。ここで出会ったお客さん同士が仲良くなったり、情報を交換したり、顔見知りが集まる場所としてコミュニティが出来上がっています。日本人だけでなく海外のリピーターも多いですし、海外に住んでいる日本人が帰国した際にも立ち寄ってくれます。

――海外のリピーターもいらっしゃるんですか。先ほどから北川さんとお話していて感じたのですが、お話がお上手というか、おしゃべりするのがお好きな方なんだろうなという印象を受けました。

よく言われますが、自分自身ではおしゃべり好きだとは思っていません(笑)。たしかにこの仕事は自分に合っているのかもしれません(笑)。

食の奥深さを学ぶ日々

――店長の北川さんのことについても聞いていきたいのですが、入社の経緯などを教えていただけますか?もともと食べることがお好きだったんでしょうか?

もともと食べることは好きでしたが、食にすごく興味があったわけではないんです。最初は地元の信用組合に勤めていたのですが、店舗もどんどんと縮小されていくなかで転職を考えたときに「地元の企業に就職したい」と思い、縁があってこちらに経理事務として入社しました。

――最初は経理事務だったんですね。そこから店舗のほうへ異動されたのですか?

ひとつの作業だけだと頭でっかちになるからと店舗で接客の勉強をするようにと本店で接客をしていました。それから京都錦店の店長をしています。

――そうだったんですね。店舗に出られたことで食の大切さに気付いたんでしょうか?

自分自身で気付いた部分もありますが、お客様から教えてもらったことも多いです。健康意識の高いお客様とお話をする機会が多いので、食べ物の奥深さを知っていったというか。お客さんに教えてもらうことが多いです。アレンジ料理なども教わることもあるんですよ。

――お客さんと交流しながらお店を活性化させているんですね。では最後にお店の展望をお聞かせ願えますか。

店のある錦市場は「京都の台所」からいまや「世界の台所」になっています。これからは一層国際色豊かに、外国人の方も楽しめる店作りをやっていきたいです。ただ、一番大事なベースにあるものは地域のコミュニティという場を創出すること。そこは継続していきつつ、多くの人に郷土食の魅力を伝えていきたいです。

北川さんの軽快なトークに惹き込まれ、終始笑いの絶えない取材現場でした。豊かな食生活を心がけていきたいと改めて思いました。(文:西井/写真:山本)

近江の館 京都錦店 店長 北川 雅之さん 

1974年滋賀県長浜市生まれ。休日は家族でドライブへ出掛けることが多いです。滋賀や岐阜、福井などいろんなところへ行きます。

近江の館 京都錦店

京都市中京区錦小路堺町通角中魚屋町494
TEL 075-211-8400
年中無休 ※正月休みあり
営業時間 10時〜18時
https://ouminoyakata.com/

※掲載内容は取材時のものです。最新情報は念のため店舗公式の情報をご覧ください。