地元に寄り添い30余年、錦市場で味わう豆乳ドーナツ「こんなもんじゃ」
京都の台所・錦市場のちょうど中程にあるお店、こんなもんじゃ。看板商品は店内で揚げる熱々の豆乳ドーナツで、ついつい甘い香りに誘われた…なんて思い出がある人も多いのではないでしょうか。京都の観光業にも打撃となったコロナ禍を経て、客足が戻りつつある京都屈指の観光地。ここに店を構える店長の安田圭吾さんにお話をうかがうと、時代とともに変化するニーズやインバウンド需要に応えつつも、地元に寄り添う京都愛を垣間見ることが出来ました。
愛される秘訣はシンプル・イズ・ベスト
――まずは「こんなもんじゃ」について教えていただけますでしょうか。
「こんなもんじゃ」は、北野天満宮の近くにあるとうふ屋「京とうふ藤野」の直営店となります。国産大豆100%、与謝野町の地下水を使用し、徹底した品質管理のなかで安心・安全にこだわったとうふを作り続けています。
そのなかで生まれた豆乳やおから、ゆばといったとうふの副産物を、より多くの人に手にとってもらいたいと、1991年にオープンしました。とうふを知ってもらうためのツールとして、ドーナツなどのスイーツに加工して提供しています。
――スイーツに変わることで食べやすいですし、とうふをより身近に感じられますよね。一番人気の商品を教えていただけますか。
やっぱり「豆乳ドーナツ」です。このほかに豆乳ソフトクリームも人気ですね。ドーナツとソフトクリームはオープン当初から作り続けている商品です。
――30年以上この地で愛されてきたんですね。では、看板商品でもある「豆乳ドーナツ」のこだわりなどを教えていただけますか。
豆乳ドーナツは、小麦と豆乳、卵、井戸水だけで作っているんですが、このシンプル・イズ・ベストを続けていることですかね。使用している京都の水は味の入りやすい軟水なので、豆乳の甘さが引き出され、美味しいドーナツが出来上がるんです。
豆乳を入れることによって生地がふっくらとするので、口当たり優しくて食べやすいドーナツに仕上がります。外はかりっと、中はふんわりの食感を楽しんでいただけるかと。
――ほんとに食べやすい甘さで、冷めても美味しくて驚きました。この豆乳ドーナツは一日何個ぐらい揚げるんですか?
そうですねえ。コロナが明けてからはそこまですごくはないんですが、だいたい一日6000個くらいですかね。コロナ前は1万個くらい揚げていました。
――それでも6000個ですか…!それだけたくさんの方が求めていらっしゃるんですね。すでに店先から甘い香りが漂ってきます。
はい。揚げたてを提供するのがウリのひとつでもあります。できる限り注文が入ってから揚げるようにしています。1分間に80個くらいのドーナツが揚がっていくんですよ。結構見ていて飽きないです。
――たしかに、ずっと見ていられます(笑)ドーナツを作る際に気をつけていることなどはあるんでしょうか。
ドーナツの生地は気温の変化によって硬さや状況が変わるので、冬場や夏場など季節に応じた調合管理が必要になってきます。そのあたりは徹底していますね。
こういった昔ながらのドーナツが30年以上愛されているのは、日々の変化に合わせた配合率などに気を配り、余計なことはせずにシンプルを守り続けているからですかね。
――先ほどのお話にも繋がりますね。豆乳ドーナツの素材ともなる、とうふについてもお聞きしたいのですが、「京とうふ藤野」のことを教えていただけますか。
藤野のこだわりは、季節に合わせたとうふを提供しているところです。もめんや絹ごしだけじゃなくて、冷奴や湯豆腐といったさまざまな料理に合うとうふを作っています。食事シーンに合わせたとうふを作り始めたのも、うちが先駆け的存在かと。
スノボーのインストラクターからとうふ職人への転身
――では、店長の安田さんのことをお聞きしていきたいのですが…。どういった経緯でこちらの店長をされているんでしょうか。
藤野には当初、とうふの作り手として入社しました。深夜から作業に入って、とうふの原料となる豆乳を作ったり、にがりを合わせてとうふを作ったり、とうふの水分を飛ばして油揚げを作ったり…。入社当時は製造の現場で経験を積み、そのあと店舗展開などを担当する部署に異動しました。こういった工程を知っているので、どういう意味を持って商品が生まれたかを理解しながらお客さんと向き合うことが出来ています。
――元職人さんだったんですね。もとからとうふを作りたいという夢をお持ちだったんですか?
いえいえ、まったく。実は高校を卒業してからは、スノーボードのインストラクターをしていたんです。
――スノボーのインストラクター?!すごい経歴です!なにがきっかけでこちらの方に…?
地元の京都を出て岐阜で働いていたのですが、いつかは京都に戻りたいという思いもありました。あとは、自分の大切な人や子どもにも勧められるものを生業にすることが、ひとつの生きがいでもあるかな、と思っていて…。藤野のとうふは、大切な人や子どもにも安心・安全にすすめられると思っていて、これが続けて来られたひとつの大きな強みでもあります。
――なるほど。そういった想いがあったんですね。なんだか「京都愛」を感じます。
そうですね。出てこそ分かる京都の住みよさや魅力は、年齢を重ねるにつれて身にしみています。
変化するニーズとインバウンド需要への対応力
――ちなみに、店長に就任されてどれくらいになるんですか?
ここの店長になってからは6年くらい経ちますかね。
――ということはコロナ禍を経験されているんですね。京都の観光業も大きな影響があったと思いますが、その間苦労された経験は?
「待ちの商売」(店舗を構えてお客さんを待つ商売)という職業柄、こちらから発信できることには限界があり、お客さんになかなか来てもらえないというコロナ禍はしんどい時期ではありました。
――来ていただけないというのは辛いものがありますよね。いまはもうすっかり賑わいも戻り、今日も海外の方が多くいらしてます。コロナ前後の時代の移り変わりを「錦市場」という場所で見てきていらっしゃると思いますが、変化などは感じますか?
もともと錦市場は「京の台所」ということで、ここに来れば食材が揃い、季節に合わせた食材を購入できる場所でした。国内外のお客さんが観光地として認識し始めたのは、10年ほど前と記憶しています。そんななか各店舗が「持って帰る商品」から「その場で食べられる商品」の比率を少しずつ増やしていったのが印象的です。お刺身もパックではなく串に、鯖寿司は棒ではなく一口サイズ、といった形で。
――お客さんのニーズに合わせてお店を変えていったんですね。こちらでもなにか新しいことをされたんでしょうか。
ドーナツのフレーバーを月ごとに変える、という取り組みをコロナ禍で始めました。今ですと、温泉卵とチーズを乗せたりとか、アップルとナッツとホワイトチョコレートをトッピングしたりとか。その月に応じていろいろ新商品を提供し、「飽きさせない工夫」を凝らしています。
――甘いものだけじゃない変わり種のトッピングも生み出されているんですね。これは安田さんが中心となって始めたんですか?
そうですね。商品開発は本社と僕で話し合って決めています。店舗スタッフの意見も聞きますよ。
――お店一体となって新商品を作っているんですね。この間、印象に残っている新商品などありますか?
わんこ用のおからクッキーですかね。正直、ここまで反響があるとは思っていなかった商品です。もともとは社長が飼っているわんちゃんを少しでも健康にするために作った商品で、自分たちの家族のように大切にしているわんこにも、からだに良いものを食べて欲しい…との思いで始めました。
そこまで宣伝はしていなかったのですが、じわじわと口コミで広がって、いまでは海外の方を中心に買い求めてくださいます。柴犬のパッケージも人気で、このデザインを求めてわざわざ買いに来てくださるんです。
毎日食べても食べ飽きない商品を
――いろいろな工夫をして、国内外の観光客に満足していただく空間を作り上げているんですね。30年以上お店を続けて来られた秘訣について、どうお考えですか?
京都でいったら30年なんてまだまだですが…。とにかく、シンプル・イズ・ベストを守り続けてきたことが大きいです。藤野のとうふでもそうなんですが、日常品であって、嗜好品にならない商品づくりを心がけています。いいものをつくってこだわりすぎると、それは嗜好品になる。藤野のとうふはそうではなくて、一家に一丁おいてもらうというのが大切。とうふもドーナツも、毎日食べても食べ飽きない商品でありたいと思いながら、商品を開発しています。
――素敵なお言葉をありがとうございます。最後に今後の展望についてお聞かせ願えますか。
地元の方に愛されるとうふ屋であり、京都を訪ねたときに寄りたいと思える拠点でありたいですね。
京都で大学生活を過ごした私としても馴染みの深いお店でもあります。自社の商品に誇りと愛情を持っていらっしゃるお姿が印象的でした。錦市場へ行かれた際はぜひ足を運んでみてください。(文:西井/写真:山本)
こんなもんじゃ 店長 安田 圭吾さん
1981年京都市生まれ。趣味はキャンプ。アウトドアなど体を動かすことが好きです。
こんなもんじゃ
京都市中京区錦小路堺町通角中魚屋町494
TEL 075-255-3231
不定休
営業時間 10時〜18時
https://www.kyotofu.co.jp/shoplist/monjya
※掲載内容は取材時のものです。最新情報は念のため店舗公式の情報をご覧ください。