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ヨアケ代表取締役社長の氣賀さん

綿布を通じて技術や職人に光をあてる「ヨアケ」

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烏丸通の西隣の通りに、歴史を代弁するかのような古い木製看板が掲げられた建物があります。こちらは綿布問屋 株式会社ヨアケさん。幾度の戦禍を経験し、激動の時代を乗り越え未来に向かって歩まれるヨアケ代表取締役社長の氣賀さんにお話をうかがってきました。 

ヨアケさん商品の記事

ーーヨアケについて教えてください

株式会社ヨアケは明治36年、洋反物綿布問屋「夜明屋」として京都で創業しました。天然繊維の綿ネルや晒(さらし)を産地から集めて欲しい人に届け、スフ(ステープルファイバー)といって当時は最先端の再生繊維も扱っていたようです。明治42年に五条通に面して本店と分店を構えていましたが、大戦末期の昭和20年、強制疎開令により五条通沿い(南側)の民家や商店はすべて立退きました。僕らでは想像しがたい苦労があったのだろうと思います。

昭和10年 夜明屋本店
昭和10年 新築記念特売会の夜明屋本店。「洋反物綿布商」の看板も一緒に写っている。

ーー当時の社名は夜明屋だったのですね

現在の社名・ヨアケは昭和62年に先代会長が当時流行のCIで夜明からヨアケに変更したものです。 

夜明屋は、創業者の野田安次郎本人が自分のあだ名を社名にしたと聞いております。シンボルマークの「ヨアケ屋号」は創業者の実家がお茶屋(野田茶舗)を営んでいた時に掲げていた「ヨアケ屋号」に「・」をつけたもの。それを「かねほしや」とよませたのです。ユーモアのある方だったようです(笑)。

かねほしやの暖簾
創業当初、軒下に吊るされていたシンボルマーク「かねほしや」がデザインされたのれん。
ヨアケ創業当初の帳簿
墨で記帳された歴史的にも貴重な創業当初の出入帳。

ーーヨアケに入ったきっかけは?

ヨアケとの関わりは30年前でしょうか。当時僕は大阪の帽子メーカーに勤めていました。学生の時は文学部でしたので初めての繊維の世界での企画や営業がとても大変だったと記憶しています。 

インタビュー中の氣賀さん

仕事にも慣れてきた頃、僕の親父の知り合いでもあったヨアケの常務に街で偶然会いましてね。若年の頃から知っているから「おー、最近何してるんや」と。当時の仕事内容を伝えたら「うちに来い」と言われ、僕も調子いいもんだから「はい、よろしくお願いします」と言って別れたんです。携帯電話がない時代だからその場限りの立ち話と考えていたのだけれども、後日、親父から電話があって「お前、ヨアケさんどうするんや」って。まさか常務が親父に連絡していたとは驚きましたね。それでヨアケの社長面接で開口一番「いつから来るんや」って(笑)。え!もうヨアケで働くことになってるんだと…忘れもしない10月末のことです。僕も新しいことにチャレンジしたいと思っていたのでしょうね、年明けからヨアケで働き始めました。

くらしのなかへ。その言葉の真意とは 

ーー社長になられたのは2021年なんですね

ヨアケには先人たちが築いてくれた歴史や伝統があって、それらを次へ繋げるのが僕の役目だと思っています。先代の会長がVAN・JACKET*の故・石津先生と親交があり、時々ヨアケに来られてたんです。その息子さん石津祥介先生に僕が社長になる前、ヨアケの将来の展望を聞かれ、ちょっと気負って「日本の文化、京都の文化を広めたいです」と答えたら「文化、文化って言うけど、文化っていうものは、生活の中で使われて初めて文化。生活の中で使える商品を開発しなきゃ」と言われましてね。ぎゃふん!となって京都の伝統、工芸、技術、手法を何百万するものではなく手の届く範囲の中でやっていこうと決め、文化を暮らしの中に戻しましょうと社員や取引先などに話しました。「くらしのなかへ」は、ヨアケの指針になっています。 

*VAN・JACKET:1950年代より日本にアメリカントラディショナルスタイルを浸透させ、60年代には「アイビールック」や「みゆき族」など流行を作り、T.P.O (Time Place Occasion)という言葉でスタイル全般をイノベーションしメンズファッションとライフスタイルの文化を築く。   

ーー文化を暮らしの中へ戻すために何が大切だとお考えですか?

僕が引退するまで仮に20年だとして、少しでも京都や日本の伝統産業が活性化すると嬉しいなという気持ちがあります。京都は観光業と同じくらい地場産業も多くの人の手にとってもらわないと次の世代まで続いていけない。京都の地場産業を活性化するためにも、染色や縫製など府内の職人と仕事をすることでヨアケができることを地道に取り組んでいます。そのひとつとして2021年に屋号「かねほしや」を新たなブランドとして立ち上げました。   

2021年3月 京都ギフトショー出展時の様子
2021年3月 京都ギフトショー出展時の様子。
絞り染め職人とコラボした表情が1点ずつ異なる日用雑貨のクッションカバー
絞り染め職人とコラボした表情が1点ずつ異なる日用雑貨。

ーー商品の企画製作もされるんですね

綿布を卸すだけではなく、自分たちでできることにも挑戦しようとネット店舗での販売やクラウドファンディングで商品開発も行いました。布の知識を生かした寝装品や雑貨がメインです。昔から付き合いのある京都の縫製職人に見本を作ってもらい、サンプルを見ながら改良して良い商品を世に送り出そうと社員みんなで頑張っています。   

ーー綿布問屋の魅力を教えてください

天然繊維の綿は農作物と同じなんです。ワインのように年度や産地ごとに出来が異なるので、見極めて仕入れたものをお客さんに提供して喜んでいただくのが僕たちの腕の見せどころですね。そこが面白くて綿だけでなく繊維の世界にどっぷり浸かりました。ヨアケ自身が繊維に詳しい会社だったので若い時に色々勉強したものを、次へ繋げていくことが先代会長や京都への恩返しだと思っています。 
天然素材のやさしい肌ざわりもやっぱり好きですね。その良さを多くの方に知っていただきたいです。

伊勢木綿のがま口
伊勢木綿のがま口。ユニセックスで愛用できる色味が人気。 

教えることが多いと思われがちな年齢になって来たけど、年齢に関係なく教えてもらうことの方が多いと話される氣賀さんの言葉は、いつの間にか凝り固まってしまった自我がほぐれていくようでした。これからも先代会長や京都への恩返しをそっとのぞかせていただければと思います。(文・写真:武藤)

株式会社ヨアケ 代表取締役社長 氣賀高靖さん

株式会社ヨアケ 代表取締役社長 氣賀 高靖さん 

京都でおばあちゃんっ子として育つ。大学の同級生と10年以上付き合い結婚し、奥さんのご両親から未だに「氣賀くん」と呼ばれている。趣味はゴルフ、PC自作。先代会長が始めた広報誌ヨアケニュースを復活させネット上で発信していきたいそう。

株式会社ヨアケ

京都市下京区諏訪町通松原下る弁財天町328
TEL 075-351-8987
定休日 土・日
営業時間 9:00〜17:30
http://yoakeya-honten.jp 

※掲載内容は取材時のものです。最新情報は念のため店舗公式の情報をご覧ください。