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菓子屋のな

ベースは和菓子、だけどジャンルに縛られない「菓子屋のな」 

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味覚でも銘でも季節を感じる菓子を作り続けたい 

堀川五条のすぐ近く、小学校や住宅が立ち並ぶエリアにお店を構える『菓子屋のな』さん。いろいろな雑誌などで取り上げられている人気店です。お店はご夫婦二人で営んでおられ、今回は和菓子職人の名主川(なぬしがわ)千恵さんにお話を伺いました。

菓子屋のな 外観

和菓子とイタリアン。二人だから生み出せる味

――お店の名前の『のな』は、ご夫婦それぞれの苗字一文字ずつをとって…と伺いました。語幹がとてもかわいらしくてお店の雰囲気にもぴったりですね!

ありがとうございます。実は『のな』という店名は、この店の内装やデザインを担当してくださった会社の社長さんからの提案なんです。自分たちでもいろいろアイデアを出していたのですが、どれもあまりしっくりこなくて。分かりやすい名前にしたので、店近くの小学校の生徒さんたちが時々『のな〜』って呼んでくれたりして(笑)、今では『のな』にして良かったなって思っています。

――『和菓子屋』でなく『菓子屋』なんですね。

『菓子屋』とつけることは屋号で何屋か分かるようにという思いがあり、初めから決めていました。ベースは和菓子ではあるんですけど、ジャンルにとらわれないようにしたいなという気持ちから、そうつけています。

――なるほど。確かに商品には旬の果物などが使われていて、新しい和菓子という印象です。

上生菓子って色目や見た目で季節を表現するんですが、私たちの店のものは食べて季節を感じるようにしたかったので、季節の果物を使うようになりました。ハーブや洋酒なども香りづけで加えているんですよ。

菓子屋のな 『ペイネ』
取材時はいちじくの和菓子が店頭に

――季節にあった商品はどのように思いつかれるのでしょう?

季節がめぐってくると、旬の果物や食材を多く見かけるので、それを見てこうしようかって思いつくいうことが多いですね。すでにある食材から考えることもあります。 

――ご夫婦でお店をされていますが、お二人で商品を考えられているんですか?

はい、ほとんど二人で決めていますね。銘(=お菓子の固有名詞のこと)は私が考えることが多いですが、味に関しては二人で。一般的に和菓子は季節の食材を使う事があまりないのですが、イタリア料理のシェフである夫はそれが当たり前の世界にいたので、食材にこれ使おうだとか、食材の活かし方などいろいろアドバイスをしてくれます。なので夫の影響はかなり大きいですね。  

菓子屋のな 名主川さん

――今までで、難しいながらも意外にうまくいったなあと思った食材はありますか?

そうですね、ルバーブでしょうか。西洋ふきのことです。洋菓子ではよくタルトやジャムにしたりされるものなのですが、餡子にするのは意外と難しくて。和菓子の形はなでしこ、グリーンルバーブの餡子で作り、銘は『河原の花』としました。   

菓子屋のな グリーンルバーブ餡の菓子『河原の花』
グリーンルバーブの餡子で作った和菓子「河原の花」(画像:名主川さん提供)

多大な影響を受けた工場長とおばあちゃんの和菓子

――お店の定番商品の『アントニオとララ』、他にも『ペイネ』など、商品名は文学をイメージするものが多くてとても印象的です。

季節で思い出す映画とか音楽、文学作品などからイメージする言葉だったりします。逆に銘を先に考えて商品のイメージを膨らませる場合もありますね。  

菓子屋のな 定番商品『アントニオとララ』
定番の『アントニオとララ』。アンデルセン原作、森鴎外翻訳の小説がモチーフ

――どれも響きが素敵ですね…。

銘も見た目も、以前勤めていた和菓子店の工場長からかなり影響を受けたんですよ。  

例えば羊羹で『吟遊詩人』というイメージを色で表現し、さらに銘にもされたんです。形のないものを和菓子で表現されることにとても感動しました。  

他にもすみれの花の時期に『乙女の唄』という銘のものも。それは白と黄色と紫の三色の絞りですみれの花を表現した和菓子だったのですがその意味をたずねると、工場長の青春時代って宝塚に行くのが憧れのデートコースだったんですって。そこから宝塚歌劇団の『すみれの花咲く頃』を連想されて銘にされたそうです。銘でこんなに感動が大きくなるのか、その発想がとっても素晴らしいなって。 

――どちらも聞いただけでイメージが膨らみますね!

工場長の和菓子の銘に心惹かれる方が多かったんですよ。食べる前から感動が始まっていて、この銘の和菓子を買いたいといらっしゃるお客様も。私もかなりワクワクしました。おかげで銘の付け方を学ぶことができました。  

――名主川さんが和菓子職人になろうと思ったきっかけはありますか?

じつは元々和菓子職人を目指そうと思ったことはなかったのですが、和菓子に興味を持ったきっかけは、一人旅でもらったおはぎですね。 

 大学の卒業論文の調査で『ソラヨイ』という行事を調査するために鹿児島県知覧町へ行った際、地元の方々にいろいろ教えてもらい、とてもお世話になったんです。特にお世話になったおばあさんがいたのですが、帰る日の挨拶に伺った時に手作りの大きなおはぎを持たせてくれたんですよ。出会いとか別れとか、そういう時にお菓子を持たせてくれるということってとてもいいなあと感じて、和菓子にぼんやり興味をもち、作ってみたいな、働いてみたいなと思うようになったんです。

――素敵な出会いをされたんですね!

はい。みんないい方々ばかりでしたね。本当にいい思い出です。

それから大学を卒業し製菓学校の夜間部に入学しました。その学校に貼り出されていたアルバイト募集の中に、働いてみたいなあと思える和菓子店があったので応募し働けることに。そのままその職場に就職して、後に私にいろんな影響与えてくださった工場長に出会ったりと、本当に学ぶことが多かったです。和菓子づくりの現場が本当に楽しくて、本当に恵まれてたなって思います。

菓子屋のな 店頭の稲穂
たわわに実った黄金色の稲穂は、名主川さんの実家から届いたもの

――最後に、のなさんのこだわりや思いを聞かせてください。

そうですね、季節の旬の食材を使い、見た目だけじゃなく食べても美味しいお菓子を作り続けたいと思っています。また銘でも季節を感じていただき、楽しんでもらいたいですね。 

菓子屋のな 商品
店頭にはその季節の旬を感じる和菓子が並ぶ

取材の後、季節限定の『栗万寿』という栗蒸し羊羹と、洋梨のあんチャバタを購入。(チャバタはラスト1つ!)『栗万寿』は甘さ控えめの上品なお味でとても美味でした!長い夏が終わり、味覚でようやくやって来た秋を満喫できた気分です。チャバタも絶品!旬の洋梨と餡子がもっちりチャバタでサンドの食べ応え十分なもので、こちらも超オススメです。その日販売される商品の情報は素敵な写真とともにお店のInstagramにアップされていますので、ぜひチェックしてみてくださいね!(文:上山/写真:武藤)

菓子屋のな 名主川さん

菓子屋のな 名主川 千恵さん

兵庫県淡路島出身。大学を卒業後、製菓学校を経て老舗和菓子店に勤務。長年勤めた後、2年前に夫婦で『菓子屋なの』をオープン。趣味は読書だが、最近はなかなか時間がとれないそう。絵本作家の安野光雅さんを尊敬していて、和菓子の色味は絵本から参考にすることも。 

菓子屋のな

京都市下京区醒井通万寿寺角 篠屋町75 
TEL なし
定休日 日曜日・月曜日
営業時間 12:00〜18:00(売り切れ次第終了)

※掲載内容は取材時のものです。最新情報は念のため店舗公式の情報をご覧ください。