江戸時代から続く金物卸「河長」。会社の奥には秘密のアジト!?が。その正体は…
繋がりを大切にした貸しギャラリースペース
松原通にある金物卸「河長」。会社ビル玄関から入り、商品棚の間の細い通路を通り抜ければ奥にはそれまでとは一線を画す真新しい入口に突き当たる。扉を開けると中は広々とした黒を基調にしたモダンでシックなスペース。そこは今年の2月にオープンした貸しギャラリースペース「京烏(きょうからす)」。なぜ金物屋さんがおしゃれなギャラリースペースを?つくったきっかけや目的を河長12代目吉田高朗さんにお聞きしました。
金物とは?実は家の中にある身近なもの
――はじめに河長さんについて教えてください
創業が1751年で、もともと近江商人が初代と言われています。ずっと金物を取り扱ってきて、明治の頃までは荒物、いわゆる鍋ややかんとかを扱う卸販売をしていました。昭和に入ってから箪笥の取手など家具に関する金物を。昭和の終わりには洋家具や内装に使用される現代金具を扱うようになりました。
――こちらはモダンな金物ですね。
これは2012年に立ち上げたGOKOH(ごこう)という河長オリジナルブランドで日本古来の文様の二つ巴をモチーフにしたインテリアフックです。すべての工程を京都の職人が手掛け、伝統的な技術を現代のライフスタイルに落とし込むことをコンセプトにしています。
交流して繋がることがビジネスに発展していく
――時代に合わせた金物を扱われているのですね。でもそんな金物を扱う会社がどうして貸ギャラリースペースをつくられたのでしょう?
もともと自分が幹事役的な役回りで、仕事で知り合った職人さんやものづくり界隈の人たちと定期的に勉強会を開催していました。といってもただ夜飲むというものだったんですけどね。その会での繋がりが各々のビジネスに発展していくことがあって、ご縁が産業を活性化させるということを体感したんです。そこで交流の場を常設しようと思い6年前にギオン京烏(きょうからす)というスペースを作りました。
交流して繋がりを生むことが目的ですが、そこではものづくりに特化しないコンテンツをやりたいなと考え落語イベントとかもやっていました。そしていずれ会社の場所でスペースを作りたいと思い、祇園は2年前に閉めて改めてここに作ったんです。
――なるほど。以前は祇園にスペースがあって色々なイベントをされていたのですね。ちなみにこのスペースで現在されていることは何ですか。
ここでは金継ぎ教室を定期的に開催しています。他にも絵画展や数学教室もやりました。数学教室は「自分の子供に教える」という趣旨で、大人向けに開いたんですよ。あと2月にはうちの金物の在庫を展示して売るデッドストック市もやりました。今までお店に来たことのない方、今からお店を開店するという主婦の方などがいらっしゃいました。それから交流会ですね。今はコロナの影響で控えていますが、もともと付き合いのある設計士の方たちと毎月一回は何かやりましょうと。
――もともと職人さんたちと積極的に交流会をしようと思ったきっかけは何ですか?
職人さんが自分で企画して展示会を開いても、魅力をうまくアピールできていないと感じることが多かったんです。招待されている人もその世界のせまい範囲の人たちなので、これでは広がらないのではと。また作品をつくることに目一杯で、その先の売ることまでなかなか頭が及ばない。例えばですが、新しくネットショップをはじめようと思っても、それを教えてくれる人や作ってくれる人を知らないことが多いんです。もともと積極的にネットワークを広げることが苦手な方も多いので。
ものすごく技術もセンスもある職人さんたちがもっと知られてほしいなという思いと、職人さん自身がネットワークを広げるためにも交流の場があった方がいいなと思ったのがきっかけです。
自分のポジションとしては「どこに聞いたらいいのかわからない」ということに対して、それに適した人を紹介することができるので何でも相談できる相手でありたいと思っています。 それには信頼関係がないとできないですし、このスペースでの活動を通してさらに築くことができればと思っています。
近江商人「三方よし」の精神。いずれ自分にかえってくる。
――確かにしっかりと信頼関係があった上でというのは重要ですね。
性格的なものかと思うのですが、基本的に売れてしまっているものには興味がなくて、めっちゃがんばっているけれど、どうやったら売れるかわからないという人をなんとか売れるようにと取り組む方が面白いです。
――確立されていないビジネス構築のプロセスにやりがいを感じるということですか?
そうです。飽き性なので同じことをやるのが苦手で、ちょっとした困難を見つけては解決していく、流通の本質だと思うのですがそこにやりがいを感じています。河長の初代が近江商人ということもあり「三方良し」の精神で自分が儲かれば良いというのではなく、みんなが良くなるようできればと。
金物は建築や家具が作られることで必要とされるものですから、こういう活動から何らかのビジネスに発展することがゆくゆく金物に行き着く、いずれ自分にかえってくるのではと思っています。
このスペースを色々な人が自由に使ってほしい
――これからギャラリー京烏でやろうとしていることは何ですか
基本的には貸しスペースとして自由に使ってほしいので、持ち込み企画をやってほしいですね。学生さんとか主婦の方でも構いません。うちに来ているお客さんで設計士や職人さん、作家さん、クリエイターさんがいるので彼らの技術とまた繋がって面白いことになればいいなと思っています。何かに限定しているわけではありません。落語とか色々エンターテイメント的なこともやりたいですね。
京都では創業100年はまだまだと言われるとか。河長は江戸時代から続くなかで、それぞれの時代に合わせて扱う商品を変えていくなど常に進化しています。12代目の高朗さんもまた業界では早くにネットショップの立ち上げやオリジナルブランドの開発、さらに新しいコミュニティの創造の場としてギャラリーの運営まで行うなど活動的です。決して目先の利益だけを考えず行動するその原点には、「三方良し」の近江商人の DNAが脈々と受け継がれていると感じました。それこそが河長が270年以上も続く所以のような気がします。 (文:加藤/写真:山本)
河長 代表取締役
ギャラリー京烏運営 吉田 高朗さん
1977年生まれ 地元テレビ局で契約スタッフとして勤務後、河長に就職。 2019年12代目河長の代表に就任。趣味 釣り、BBQ、野球、カラオケ、人狼、お笑い等 浅く広くイベント企画や運営が得意分野で落語会や野球大会、異業種交流会等を定期的に開催している。
有限会社 河長
京都市松原通堺町西杉屋町275-1
TEL 075-351-6089
定休日 日曜・祝日・第3土曜日
営業時間 9:00~18:00
https://chobey.com/index.html
ギャラリー京烏
https://kyo-karasu.com
連絡先、定休日、営業時間は上記に同じ
※掲載内容は取材時のものです。最新情報は念のため店舗公式の情報をご覧ください。