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漆に対するイメージが変わる!?漆の卸「加藤小兵衛商店」

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漆の可能性を模索し続ける、漆づくりの大ベテラン  

松原通富小路を少し西に進むと、程なく見えてくる「うるし」の看板。漆器屋さんかと思いきや、お店のショーウィンドーには白木地の器が。「うるし」の看板が出ているのに、なぜ漆器ではないの?ということで、「加藤小兵衛商店」さんの八代目当主である加藤 二郎さんに話を伺いました。

加藤小兵衛商店看板
 

漆づくりに携わり、半世紀以上  

――加藤小兵衛商店さんは、どんなお店なのですか?

漆の原液を精製し、いろんな用途に応じた漆に仕立てて販売する会社です。漆を塗るのではなく、塗るための漆を作っているということですね。ちなみにショーウィンドーに並んでいるのは、漆を塗る前の器です。   

――つまり卸の会社だったんですか!創業からずっと漆づくりを?

戦時中は一時、商売ができない時があったみたいですけどね。企業整備といって、京都の中で1件しか漆屋の営業が認められなかったんですよ。しかし、漆の仕事は続けたいという一心で、規制が解かれてから周りの人に支えられつつ商売を再開し、現在に至っています。    

加藤小兵衛商店の当主加藤さん
今年で79歳の加藤さん。漆について熱く語られる姿が印象的でした。 

――小さい頃から家業を継ぐという意識はあったんですか?

私は次男でしたが、歳の離れた長男がサラリーマンをしていたので、なんとなく意識はしていました。学生の頃から少しずつ手伝いをはじめましたね。昔は正月に初荷という、同業者の中で2〜3カ月分の商品を購入し合うという風習があったんですよ。そのための商品を年末に用意したりしてね。大学を卒業してから本格的に仕事を手伝うようになり、会社を継いだのは30歳のとき。親父が急に亡くなってしまって。引き継ぎがないままのスタートでした。  

――それは大変だったのでは? 

銀行とのお金のやりとりについては、親父に任せっきりでしたので大変でしたね。商売の方は、漆の作り方は親父にしっかり教わっていたし、大学を卒業してからは本格的に仕事を手伝っていたので。家業を継ついでかれこれ49年ですが、生活様式の変化などにより今は漆の需要が減ってきています。  

漆の木アップ
漆の木。木の表面に傷をつけ、滲み出てきた樹液を集めていく。1本の木から年間で200mgほどしかとれないのだとか。 
加藤小兵衛商店店舗内樽
工場には漆の入った樽がたくさん。漆は鉄に反応すると黒くなるため、漆を入れる樽は木製か紙製。 

漆の魅力を世界に発信するために 

――漆の需要が減っているとのことですが、それは漆器の数が減ってきているとか?

いえいえ、漆って漆器だけじゃないんですよ。例えば、着物。一見関係なさそうですが、型染の際に漆が使われているし、装飾に使われる金糸や銀糸をつくる際にも接着剤として使われています。他にも寺社仏閣や仏壇、和楽器、お茶の道具などにも漆は使われていますし、日本の伝統文化に欠かせない存在なんです。ところが、だんだん日本の伝統文化って失われてきているでしょ?それに従って漆の需要もどんどん減ってきているんです。   

――確かに。考えてみれば漆っていろんなところに少しずつ使われていますよね。

漆にはいろんな魅力があるんです。むっくりとした厚みや艶があって、手でさわるとしっとりしているという装飾面での魅力はもちろんですが、漆は他にも接着剤や防腐剤、防虫剤、サビ止めなどいろんな効果が得られるんですよ。遺跡を発掘した際、木や鉄などはボロボロになっていたけど、漆を塗ったものは土の中で分解されず、そのままの状態で出土したという事実もあるくらいです。    

――漆にそんな魅力があるなんて初めて知りました。天然の素材だから、安心感もありますし。でも、漆の魅力について知らない人も多いとおもいます。

多くの人に知ってもらうために漆も新しい道を探さなければいけないですね。うちでは、漆教室を開いたり、海外に目を向けてみたり、若い金継ぎ作家の方と一緒に商品開発したり、いろいろ模索しているところです。    

――教室を開いているとのことですが、どんな方が通われているんですか?

定年退職した方や、主婦の方、木工の作家さんが中心ですかね。一度、海外の方が来たこともありますよ。漆器をつくるだけでなく、金継ぎもできます。今は金継ぎが人気で、大きなウエイトを占めていますね。     

――金継ぎ、やってみたいです。教室は加藤さんが教えているんですか?

いえいえ、私ではありません。色々な技術を修得したすぐれた先生に来てもらっています。塗りについてはもちろん、蒔絵の方法まで丁寧に教えてくれるので、初心者の方でも大丈夫。生徒さんの中には、伝統工芸の賞を受賞された方もいるんですよ。私ができる範囲にはなりますが、教室などを通して少しでも漆の魅力や面白さが伝わればと思っています。     

金継ぎの器
2007年から開始した漆教室。漆器の製作だけでなく、金継ぎもできるとか。初心者の方でも先生が丁寧に教えてくださるので大丈夫とのこと。写真は漆で破片を接着し、金粉を蒔く前の状態。 
加藤小兵衛ワゴンセール
店舗横のスペースには、白木時のお皿や漆器のワゴンセールが開かれています。近くを通った際は、ぜひチェックを!

かつて清水寺につながる京都のメインストリートだった松原通り。昔は問屋などが多く立ち並んでいたようですが、現在ではだいぶ少なくなったそう。漆器は断熱性が優れているため、熱々の料理を入れても熱が伝わりにくいため、手に持っても熱くなく、また口当たりもなめらかです。また保温性に優れているため、熱々の料理が長持ちするなど、他の食器にはない魅力がたくさん。漆についてはもちろん、日本の伝統文化の魅力について、これからもSinQで発信ができればと思っています。 (文:高原/写真:山本)

加藤小兵衛商店加藤さんプロフィール

株式会社 加藤小兵衛商店 
八代目当主 加藤 二郎 さん

1941年京都市生まれ。学生時代から時々家業を手伝い、30歳の時に加藤小兵衛商店の八代目当主に。大学時代はバレーボールをしており、1964年の東京オリンピックの強化選手にも選出された。現在は週に1回、水泳に通う。日課は清水寺までの散歩。 

株式会社 加藤小兵衛商店 

京都市下京区松原通富小路西入る松原中之町478
TEL 075-351-1932 075-351-7983
定休日 日曜日・祝日・第2・第4土曜日
営業時間 平日/9:00~18:00、第1・3・5土曜/9:00~16:00
http://kato-kohei.com/

※掲載内容は取材時のものです。最新情報は念のため店舗公式の情報をご覧ください。