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和光舎会長の西谷さんと職人の日比さん

お寺に息づく文化や技術、伝統を現代に橋渡しする悉皆屋

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いにしえの美を現代に。繊細な技で先人との絆を結ぶ 

高倉通を上り、六角通りを越えてふとガラスのむこうに目をやると、縫い子さんが刺繍を修復している工房があります。ここはお寺に息づく文化や技術といった伝統を現代に橋渡しする悉皆屋(しっかいや)さん。今回は「和光舎」にお話をお聞きしました。

和光舎で修復された刺繍

保険の営業中にお寺さんの困り事を引き受けたのが始まり  

――和光舎さんは、どんな会社なのでしょうか?

会長さん:お寺のご住職さんが着るような御法衣や御袈裟などをドライクリーニングする「京洗い」や、刺繍の修復をしています。     

――約30年ほど前に創業されたそうですが、どんなきっかけがあったんでしょうか?

会長さん:もともと私は保険の営業マンで、あるときお寺で世間話をしていたら「法衣を捨てる」というんで「勿体ないからちょっと待って、やってくれる人探してくるから」といった具合で引き受けたのが始まりです。その仕上がりにお寺さんが満足してくださってね。いつの間にか評判が評判をよんで…全国から注文をいただけるようになって今に至っています。

もともと私はこの仕事を商売にしようと思ったわけではなくて「いつかまた保険に入ってもらえたらなぁ」くらいの気持ちでやってたんです。でも相手が私をクリーニング屋さんだと思って声かけてくれているのに「がん保険が…」とか言われてもね。だから保険のお客さんにクリーニングを勧めることがあっても、クリーニングのお客さんに保険を勧めたことは今まで一度もないです。

和光舎会長の西谷さん

お寺さんに代々受け継がれる想いを大切にしたい

――長い伝統を誇る京都のまちに、このような会社がなかったのでしょうか?

会長さん:昔はお寺やご近所の奥さんで針仕事をする人がいたんですけど、そういう人が減ってきて、ほつれた法衣が箪笥にしまったままになっていたりします。例えば、私の母親も着物をピンと張って、洗って…昔は「洗い張り」というのがあったんですけど、そんな生活文化が時代と共になくなり、法衣店さんも洗わなくなって。このような仕事をする人がいなくなってしまったんでしょうね。 

――導かれたようなお仕事で、不思議ですね。

会長さん:あるとき、生地が破れてもう使えないけど、刺繍が綺麗で捨てられない打敷(仏具)があって。ご住職さんが困っていたから「新しい生地に刺繍を貼り付けたらどうですか?」って言ったら、その修繕をしてくれる人を探すことになって。それで刺繍職人さんのところに持っていったら「100年前の職人さんがひと針ひと針縫い上げた貴重なものを切り取れない」と断られてしまってね。困っていたら和装の内職をできる女性が「私やってみたい」っていうので、ご住職さんに許可もらって修繕したら、それはそれは喜んでもらえて。そんなことを積み重ねて今までに3,000枚ほど引き受けてきたと思います。 

作業中の手元

ゆっくり時間をかけて良いから、ひと針ひと針ていねいに

――手仕事だから時間もかかりそうですね

会長さん:今朝もうちの職人さんと話してたんですけど、早いとか腕がいいとかじゃなくて、とにかく一つ一つ外して、一つ一つ付け直す丁寧さが肝心なんです。​​今修繕しているのは126年前のものなんですけど、お寺の人が長年に渡って修繕したいと思ってきたものなんですよ。私たちが必要としてもらえるのは、こういう人たちの想いのおかげなんだと思います。   

――今は何名くらいの職人さんが働いてらっしゃるんですか?

会長さん:和裁の人が10名、ミシンの人が5名、刺繍の人が8名ほどいます。 80歳を超えて現役で活躍してくれている方もいますよ。和裁の学校から紹介してもらって 毎年1人ずつぐらい入社してくれますが、とにかく人が不足しています。  

――いい人が入社してくれるといいですね。

会長さん:社員を募集するときも「もし興味があるなら1週間体験してみたらいいわ」と言うようにしています。私が面白い仕事だと言っても、本人が面白いと思わないと続きませんから。例えば和裁の学校を出た人だと、せっかく振袖1枚縫えるのに、うちに来てもほつれ直しだったりするわけです。実際にやってみて、毎日針を持つのが楽しいと思ってもらえたら、入社してもらっています。ぜひうちの職人である日比さんにもお話を聞いてみてください。    

作業中の日比さん

刺繍教室に参加したのがきっかけで職人の世界へ

――日比さんはこのお仕事をされて何年ですか? 

日比さん:もう10年になります。小さい時から絵を描くのが好きだったんですけど、針仕事っていうのは特に縁がなくて。京都の芸大に通って、版画をずっとやってました。あるとき、たまたま和光舎の刺繍ワークショップに出会って「どっぷりハマってしまった」という感じです。  

――どんなところにハマったのですか?

日比さん:それまで版画のモノトーンの世界にいて、この和光舎が取り扱うものの色鮮やかさだったりとか…ちょっと今まで見たことがない世界に惹かれて。衝撃を受けました。   

会長さん:私も衝撃を受けました。初めて刺繍をされた日比さんが、この鳳凰を仕上げられて。

和光舎で修復された刺繍

いにしえの職人さんが縫いあげた打敷の一枚一枚が師匠

――それで日比さんをお誘いされたわけですね。 

日比さん:「ちょっと手伝ってみない?」と会長からお声かけいただいて。イチからものを作る世界に興味があって、ものづくりの仕事に就けたらという思いはあったんですが、この修復の世界もものづくりだと気づいたときに「ああ面白そうだ」と感じて、「昔のものづくりをみられる」とか「これはどう作っているんだろう」とか興味が高まっていきました。  

――この世界にたずさわって、改めていかがですか? 

日比さん:一人ひとり職人によって刺し方も違ったりするので「こんな表現の仕方もあるんだな」とか「こんなことが糸1本でできるのか」とか、毎日発見がありました。そんなふうに刺激を受けて、あっという間に日々が過ぎていきました。  

――仕事の1点1点がまるで師匠のような? 

日比さん:そうですね、まさに作品から学ばせてもらっています。修復の経験を重ねていくほど、師匠が増えていくような感覚です。気づいたことがあれば、実際に家で縫ってみて習得しようとします。  

――日比さんにとって、これからの目標などがあれば、お聞かせください。 

日比さん:「もうこれしか出来ないなぁ」という感じです。もしお寺様からの仕事がなくなっても、刺繍とかお直しの仕事から離れたくないというか、離れられない気がします。使命というと大袈裟ですけど「ずっとやっていくんだろうな」って感じです。(笑)  

会長さん:いま彼女が取り組んでいる大仕事も、きっと「若い職人を育てたい」と思って、注文してくださっているのではないかと私は思っています。刺繍の仕事は時代とともに減っていきますが、これだけ一生懸命に仕事をしてくれて技術を習得されているので「無駄になるはずがない。誰かが⾒てくれている」と私は思っています。  

和光舎会長の西谷さん
 

――会長さんにとって、これからの目標などがあれば、お聞かせください。 

会長さん:後継者になってくれる職人さんを見つけていきたいですね。日比さんみたいに優秀な人はなかなかいないと思いますけど、それでも広い世の中ですから100人くらい良い人がいてくれてもいいのになぁと。ぜひ和光舎にきてほしいですね。そうやってお寺の大切なものを次世代につないでいけたらうれしいです。  

伝統ある御法衣や御袈裟を取り扱われており、緊張して工房に伺ったのですが、会長さんの柔らかなな話しっぷりに甘えて、じっくりお話を聞いてしまいました。長い京都の歴史の中で伝統工芸に役立つ新たな会社が立ち上がったことに感銘を受けました。  (文:神野/写真:山本)

会長 西谷謙二さん

株式会社和光舎  会長 西谷 謙二さん 

1994年和光舎を創業。今では三条と伏見に拠点を置いて、御寺院様が今日まで守り受け継がれている文化や想いを、より発展させていくために役立ちたいと、日々「悉皆業」に励んでいます。香川県出身73歳。

職人 日比暢子さん

株式会社和光舎  職人 日比 暢子さん 

和光舎のワークショップに参加したことをきっかけに入社。大学時代に版画で培ったものづくりへの想いを、ひと針ひと針ていねいに刺繍の修復に注いでいます。嵯峨美術大学造形学部版画分野卒業33歳。

株式会社 和光舎 三条工房

京都市中京区高倉三条下ル丸屋町156 
TEL 0120-45-4435
定休日 日曜日
営業時間 10:00~17:00

本社 伏見工房

京都市伏見区新町三丁目487 
TEL 075-612-7988
FAX 075-612-5760
https://www.wakohsha.com