三つの顔を持つ男?!写真家・中澤有基が運営する「ギャラリーメイン」
誰でも気軽にアートに触れ、対話を楽しむことができる場所
五条麩屋町に青い日除けテントが印象的な古いレトロな建物があります。1階カフェの脇の階段を上げれば、2階は「 galleryMain (ギャラリーメイン) 」という写真家・中澤有基さんが運営するギャラリースペース。この9月にリニューアルしたばかりというそのスペースに伺いました。
写真家「中澤有基」の過去と現在地
――はじめに写真家「中澤有基」についてお聞きします。経歴を教えてください
専門学校を卒業してからカメラマンのアシスタントを1年くらいして、フリーランスとして独立しました。スタジオと契約して結婚式、成人式、記念写真、学校といった商業写真を撮影しながら、写真家として日々、街をスナップして作品作りをしていました。20代前半は森山大道に憧れていました。
――作品づくりのテーマは当時と今とでは違いますか?
20代前半はモノクロフィルムで「街と光と影」をテーマにしてきました。30代からデジタルで撮り出したことがひとつの転機で、今も継続している「距離と関係」に興味を持ち出しました。そこから派生して最近はさらに「人の視覚を拡張する」をテーマにしています。
仲間とはじめたギャラリーだったが…
――写真家でありながらギャラリーをやろうとしたきっかけは?
写真家の仲間たちと自分が自由で発表できる場をつくろうということで、最初5人で集まってはじめました。場所は今とは違うところです。最初は自分たちの展覧会を順番にやっていたのですが、そのうち作品のネタも尽きるので、知り合いの写真家たちに声を掛けてギャラリーとして貸し出し始めたんです。ただ経営経験の少ないフリーランスの写真家たちが、いきなりギャラリーを運営して採算を採っていくことがしんどくなってきたんですね。毎日ギャラリーに在廊しなきゃいけない時間的な制約も負担になって…。それで徐々にメンバーが抜けていき、一年後に残ったのは自分だけだった(笑)。
――そうなんですね(笑)。一人になって辞めようとは思わなかった?
続けることに悩んだけど、せっかくはじめたのでできるところまでやってみようと思って、気づけば10年経ってたって感じです。そこでは5年間やって、2016年からここに移ってきました。
――ここにしようと思った理由は?
前の場所が狭かったので漠然と広い場所を探していて、知り合いから紹介してもらった時に、がらんとした倉庫の空間を見て天井も高くて何か感じるものがありました。
――レトロな外観で雰囲気も独特で良いですね。ここは写真のギャラリーですか?
正確には写真を中心にしたギャラリーです。写真以外にも過去には絵画、彫刻や演劇もやっていました。写真が8、9割かな。うちの企画は年間3、4本。持ち込み企画が10本くらい。企画ギャラリーとレンタルギャラリーの両方を兼ね備えています。
――他のギャラリーとの違いやコンセプトはありますか
当初はなくて運営していくのに精一杯で。考える知識も経験もなく手探りで、他のギャラリーを見に行ったり話を聞く中で一般的なギャラリーの成り立ちを知って、自分のやりたいこととやるべきことを擦り合わせていった感じです。
今はギャラリーメインの機能としては展示販売、ワークショップ教室の開催、写真家たちに商業写真の仕事依頼があった際の窓口などを行なっています。さらにこれからはじめるのは作家の制作サポートとネットを使ったアーカイブと発信です。
作家の制作サポートとしては、ギャラリーに高性能な大型プリンタを導入し、作家が使えるよう制作スペースを設けました。またネットを使ったアーカイブと発信は、作家のポートフォリオをギャラリーに置き、いつでも閲覧・作品が購入できるようオンラインサービスも始めました。総合して写真に関わる人たちにどう価値を提供できるかをチャレンジしています。
――写真家とギャラリー運営を両立していく上で苦労は?
単純に2つの職業をやっているので時間が足りない(笑)。寝る間を削っています。ギャラリー運営が忙しくて、写真家としての作品制作ができないというジレンマはありますね。
約65会場で1ヶ月にわたり京都市内で開催される「KG+(KYOTOGRAPHIEサテライトイベント)」
――さらに三つ目の肩書きとしてKG+のプログラムディレクターでもありますね
もともと KG+に作家として参加し、ギャラリーとしても会場を貸していたところ、4年前にKYOTOGRAPHIEの実行委員の方からお声掛けいただきました。
――忙しくて大変ではないですか?具体的にはどんなことを
自分も作家なので気持ちがわかるから、作家が望む展示方法を極力実現できるよう、展示会場との間に入って取り持ってあげることは自分の役割かなと思います。あとは作家と会場のマッチング、各作家への業務連絡、主催会場のセッティング準備手配、スポンサーとの調整、什器、プリント、看板の発注、パンフレットの校正など多岐に渡るのでめちゃめちゃ大変です(笑)。でも自分よりキャリアのある作家さんに触れられることは勉強になるし、コネクションもできる。それは今までのギャラリー運営だけでは得られなかったもので大変やけど凄くやりがいがあります。
――KG+の会場でもあるギャラリーメインの見所を教えてください
KG+はこれから活躍が期待される若手の展示会を、京都市内の約65箇所で一同に開催しているイベント。そんな機会は日本においてないので是非周ってほしいです。若手たちの試行錯誤、エネルギー、たくさんの魅力を楽しんで見てください!うちの会場では、7名の作家の作品とアーカイブを展示していますよ。リニューアルしたギャラリーメインに是非お越しください。
――改めてギャラリーメインはどんな場所でしょう?
作品を見に来てもらってもいいし、空間を見に来てもらってもいいし、しゃべりに来てもらってもいいし。どうやって楽しんだらいいんだろうとか、作品の見方がわからないとかでもいいので話しかけてもらえれば説明や解説もします。はじめての方でもこうやって見ると展覧会が楽しいよと伝えることができます。目の肥えた方も評論家も初心者も写真家も大歓迎です!対話からはじめましょう。
写真家としての作品への想い、ギャラリー運営に留まらず写真家を取り巻く環境への溢れ出るビジョンとアイデア、次々と熱い思いを語る姿に、何にでも実に真っ直ぐな人である印象を強く受けました。このギャラリーは、作品を見るだけでなく、中澤有基さんと対話することも醍醐味であると思います。実はインタビューの予定時間を大幅にオーバーしても話は尽きずここでは紹介しきれない興味深い内容も多々。是非本人と対話してください。 (文:加藤/写真:山本)
KG+ KYOTOGRAPHIEサテライトイベント
会期:2020年9月18 日(金)~10 月18 日(日)
場所:京都市内各所
http://kyotographie.jp/kgplus/2020/
KG+は、これから活躍が期待される写真家やキュレーターの発掘と支援を目的に、2013年より京都市内でスタートした公募型アートフェスティバル。KYOTOGRAPHIE京都国際写真祭と連携し、同時期に開催することで国際的に活躍する写真家やアーティスト、国内外のキュレーター、ギャラリストとの出会いの場と国際的な情報発信の機会を提供している。
写真家/galleryMain代表/
KG+プログラムディレクター 中澤有基さん
1980年生まれ、京都市在住。2002年ビジュアルアーツ大阪卒。galleryMainを主宰するなどギャラリストとして活動しながら写真作品を発表。主な展示に『震える森、焦点の距離』(2013/gallery 9 kyoto)、『無関係な関係、適切な距離』(2016/galleryMain)、『無関係な関係、空白の定義』(GalleryParc/京都)など。アートフェア『FOTOFEVER ARTFAIR PARIS』(Carousel du Louvre)に2014年2015年に出展。外部での写真企画やディレクションなども行う。2015年よりKYOTOGRAPHIE京都国際写真祭サテライトイベントKG+プログラムディレクターも務める。高校はサッカー部でポジションはミッドフィルダー。今でもたまにフットサルしている。
galleryMain [ギャラリーメイン]
京都市下京区麩屋町通五条上ル下鱗形町543-2F
TEL 075-344-1893
定休日 展示会開催期間中のみオープン
営業時間 13:00~19:30
http://www.gallerymain.com
※掲載内容は取材時のものです。最新情報は念のため店舗公式の情報をご覧ください。